2013.07.30 Tuesday

宗達を検証する(2)「宗舟・平次宛 角倉素庵書状」から見えてくる絵師宗達の実像

連続講座『宗達を検証する』
第二回「宗舟・平次宛 角倉素庵書状」から見えてくる絵師宗達の実像 ―宗達の居住地と社会的基盤について―
7月27日 於:Bunkamura B1特設会場

【「角倉素庵書状」にいう《六原の絵かき》とは、絵師宗達のことか?】
「藤本宗舟・角倉平次宛 角倉素庵書状」(個人蔵*1)にある〈六原の絵かき〉が絵師宗達であるかを検証するのが今回のテーマ。

大正2年(1913)の宗達記念展以降、作品以外に知られていない絵師宗達について関心が高まるなか、『美術研究』第111号(1941)で「妙持宛 千少庵書状」(大和文華館蔵)が紹介された。
文面には、西陣織元井関妙持と茶人千少庵を振舞に招いた人物が「俵屋宗達」とある。しかしこの俵屋宗達が絵師であることを示す文言はなく、本来であれば参考資料とすべきであるところを研究資料として使い、解説者が絵師宗達と即断してしまった。この書状の読み方から、絵師宗達について、上京あたりに住む「俵屋」という屋号をもつ裕福な上層町衆とのイメージが生まれ、定説となった(ちなみに、辻邦生『嵯峨野明月記』はこの説をもとに書かれている)。
「千少庵書状」にいう「俵屋宗達」については、井関妙持と関係の深い蓮池家(俵屋)に宗達という人物がいたと予想している。仮名草子『竹斎』では、扇を販売する「俵屋」は平安時代の五条大路(現在の松原通)にあることが示されている。
また、同様の誤解として、光悦会編『光悦』で本阿弥光悦と宗達が並んで紹介され、ここから宗達が光悦によって見出され世に出たという定説も生まれているが、これも証拠がない。

貿易商で能書家としても知られる角倉素庵は書籍蒐集家でもあった。「角倉素庵書状」は角倉素庵が入手した唐本二冊『長生詮』『無生訣』を見せてほしいという友人の能書家藤本宗舟に、<六原の絵かき>に貸しているので、次男平次に案内させる、という内容である。貸したのは粉本(模本)制作のためである。
仙人と祖師の図像が載っている明版『長生詮』『無生訣』(洪応明編著『仙仏奇踪)を絵手本として寛永期に作品制作を行ったのは俵屋宗達以外にないことから、この書状に登場する<六原の絵かき>は絵師宗達と考えられる(*2・*3)。
「六原」は鴨川の東、清水道に面した六波羅蜜寺の南地域で、京の葬地である鳥辺野の入口にあたり、生と死が身近な場所であった。清水坂は非人が住むところとして知られた。宗達画の主題となる無常観の背景にはこうした土地柄があるのではないか。

講座はこの後、六原を講師撮影の写真やGoogle Mapの地図と写真でたどった。現在、六原の名称が残っているのは、六原小学校とハッピー六原(スーパーマーケット)だけだそうだ。もしかすると、ハッピー六原のあたりに宗達は住んでいたのかもしれない。一度訪ねてみたいものです。


*1 「角倉素庵書状」は現在、講師の林進氏蔵。講座当日、実物を見せていただいた。茶色くて一見汚く見えるのは柿渋で、後年保存のために塗ったのではないかということだった。
*2   『仙仏奇踪』に収載された仙人図・祖師図を得て本として描いた宗達作品としては、『呂洞賓図扇面』などがある。米クリーブランド美術館蔵『鳥窠図』は宗達筆となっているが、講師は工房作と推定している。
*3  同じ頃『仙仏奇踪』を用いた絵師に狩野山雪がいたのだが、このことに講師は触れていない。 

講座の後、ナディッフモダンからみなとや 幽霊子育飴本舗の子育飴をおみやげにいただきました。純露を思い出しました。
子育飴


【講師による第一回講座のまとめ】
〔田家早春図の主題〕
醍醐寺本「田家早春図扇面」は、長閑な春の田舎の茅葺き家が描かれているが、左の土間のある一棟(産屋)、満開の桜、激しい川の流れを描くことで、無常観を表す。

【課題:醍醐寺蔵「舞楽図屏風」の主題は?】に対する解答
 醍醐寺本「舞楽図屏風」の右隻には、右に白装束に鳩杖を持つ採桑老、左に緑の裲襠を着けた二人舞の納曾利が描かれ、左隻にはm右に赤い裲襠を着けた羅陵王(下)と還城楽(上)、左に郡上の衣装を着けた崑崙八仙が描かれている。右隻右下に大太鼓、大鉦鼓、幄舎、左隻左上に満開の桜・老樹の松が対置して表され、、屋外の舞楽の場で有ることを示す。
 本図の主役は、死相を見せる怪奇な面を着けた採桑老であり、不老長寿の薬袋を得たが、死を免れない。一双の画面、左から右へ、崑崙八仙の少年期、還城楽と羅陵王の青年期、納曾利の壮年期、採桑老の老年期を、それぞれ舞人の身体の動きと衣装の色彩(群青、赤、緑、白)で示す。本図の主題は「老いの坂図」と同じで、いのちの儚さ、無常観を表す。


2013.07.21 Sunday

和様の書@東博平成館

東京国立博物館平成館特別展示室 特別展「和様の書」2013.7.13-9.8

和様の書
絵をみるようになって、いろんなかたちで書に接する機会が増えたおかげで、書にも多少は関心をもつようになった。子供のころから習字がへただったので、書道をやってみようと思ったことはないけども(習字と書道を同列にしている時点でアウト!)

「和様の書」とは、中国からもたらされた書法を日本の文化の中で独自に発展させた、日本風の書のことです。平安時代中期以降に社会制度や文化の和風化が進むと、日本独自の仮名が生まれ、仮名と漢字が調和した「和様の書」が展開していきました。[展覧会チラシより]

どうやって感想を書こうかと思っていたところ、東博の展覧会詳細ページだけでなく1089ブログでもいろいろと解説しているので、そちらを参照すれば、もうそれでいいでしょ! 記事を書こうとすればまず誰もが触れたくなる内容が網羅されている。
和様の書の成立(10世紀頃)に貢献した三跡(小野道風、藤原佐理、藤原行成)の書、戦国時代の天下人(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)の自筆の書、四大手鑑(鑑定するための筆跡をアルバムにしたもの。なかみはもちろん、アルバムに自体も立派)、《平家納経》と、みどころ満載。出展作品約150点のうち約80点が国宝・重要文化財というのだから。
世界最古の自筆日記として世界記憶遺産に認定された藤原道長『御堂関白記』も認定後初公開。

和様の書は中国の書とくらべて、柔和で優美という。そのあたりを意識しながら、さらにひとりひとりの個性をみくらべ、人となりなんかを想像していくのが楽しい。
藤原行成_白氏詩巻(部分)
藤原行成《白氏詩巻》(部分)
1089ブログで「いわゆる和様の書の完成した姿」として取り上げられている。美しいです。こういう漢字にひらがなが交ざって調和している書の美しさといったら。
書だけでも美術品と思われるものもたくさんあったが、料紙もどんどんと多様になって、その調和によって美術品としかいいようのないものが登場する。だいたい書のほうはほとんど読めないのだから、美術品として眺めるしかないんですけどね。

展覧会は空いていたけど、これ、みのがしたらもったいない。和様の書の歴史を感じながら、お気に入りの美しい書をみつけてみよう。書をやりたくなるかも。
展示替えが、作品によってはけっこう頻繁にあるので、もしみたいものがあるなら、展覧会詳細ページでよくチェックしましょう。

2013.06.30 Sunday

ファインバーグ・コレクション展@江戸博

江戸東京博物館「ファインバーグ・コレクション展―江戸絵画の奇跡―」
2013.5.21―7.15
江戸絵画の奇跡

米国のファインバーグ夫妻が蒐集してきた江戸絵画を中心とする日本美術のコレクションから約90点が里帰り(これって重ね言葉かな)。
若いころにメトロポリタン美術館で目にした江戸絵画に感銘を受けてコレクションを始めたそうだが、自分の目を信じて蒐集しながら、さらに見る目を養っていったんだろうな、などと想像すると、まぶしい。

琳派
最初に目に飛び込んでくるのは俵屋宗達の掛け軸《虎図》。丸っこくてユーモラスな虎が半身だけ見せるという構図が抜群。よくみると細かな毛が無数描かれていて、毛並みの柔らかさを生み出している。
酒井抱一《十二ヶ月花鳥図》はほかにもいくつかあるが、どれも貫禄の出来。すべてが一堂に会する機会があればどんなにしあわせだろうと思う。
鈴木其一《群鶴図屏風》。其一らしい奔放なデザイン性が生み出すリズムがみごと。これは大琳派展でみたのと同じじゃないかなと思ったら、そうだった。あのときにも来日していたのか。
鈴木其一《山並図小襖》《松島図小襖》も大胆にデザイン化され雄大な広がりが感じられる。
鈴木守一《平経正弾琵琶図屏風》は背景がこげ茶になっているが、銀箔らしくて、これが銀色に光っていたらさぞかし魅力ある画面になっていただろうと思うと残念だ。

文人画
文人画、南画のたぐいはやや苦手にしているのだが、今回は、池大雅《孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風》の迫力ある筆使いに感心したり。
谷文晁《秋夜名月図》の落款のでかさには驚いたが、枯れた感じの画面に赤い落款が存在感を誇示していて、うまく馴染んでいた。

四条円山派
円山応挙《鯉亀図風炉先屏風》は裏に絹を張ってそこに水紋を描いて合わせた珍しいもの。水紋が広がっていくようにみえた。
珍しいといえば、竹内栖鳳《死んだ鶴図》は西洋画によくある、狩った獲物を吊るしたりした光景を日本画で描いたもので、西洋画ほどグロテスクではなかった。

このほかにも、奇想派の枠で伊藤若冲、曾我蕭白、そして浮世絵と、幅広く集めたものだなと感心する。江戸絵画というくくりでいえば、多岐にわたって優品が揃っているので、かならず気に入る作品があると思う。

残念だったのはショップのポストカードのほとんどが大判だったこと。展覧会でいつも何枚かポストカードを買うけど、大判だとファイルに入れられないので、今回は断念した。

2013.06.29 Saturday

夏目漱石の美術世界展@芸大美術館

東京藝術大学大学美術館「夏目漱石の世界展 Natsume Soseki and Arts」
2013.5.14-7.7
夏目漱石の美術世界展
夏目漱石の文学作品や美術批評に登場する作品などを集めるという刺激的こころみ。
漱石が日本美術に親しむ環境にあったこと、英国留学でラファエル前派をはじめとするイギリスの美術に触れたこと、それを血肉にして文学作品に落とし込んでいったことがよくわかると同時に、漱石の目を通して美術作品に再会することができる、文学と美術の絡み合いが知的興奮を誘う。
夏目漱石の小説はいくつかしか読んだことがなく、しかも遠い昔のことなので、そこに美術作品がどれほど登場していたかなんてことは全然おぼえていない(恥ずかしいかぎり)。しかしこの展覧会は、猫の我輩が主人と美術のかかわりを解説してくれたり、美術作品について書かれた漱石作品の部分が示されていたりして、読んでいなくても十分に楽しめる親切な構成になっている。

そもそもこの展覧会に行こうと思ったのは、なんといっても、ウォーターハウスの2点が来ているからだ。
ウォーターハウス_シャロットの女
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《シャロットの女》リーズ市立美術館
塔のなかで鏡を通してしか外の世界を見ることが許されない呪いをかけられた女が、ランスロット卿を追おうと運命に抗って直接外の世界へと向かったとたん、足に織物の糸が巻きつき、鏡にひびが入る。アルフレッド・テニスンがアーサー王の物語をもとに描いた詩より。
ウォーターハウスはこの題材でほかに2点を描いている。
動きのある場面と表情には彼女の渇望感のような焦った気持ちが色濃くあらわれ、部屋のなかの様子からは、そこが退屈な日常が遅々と進んでいく、世間とは隔絶された世界であることが伝わってくる。彼女は画面のど真ん中にいて、いままさに手前へと消えていこうとしているのだが、この先にある運命は死なのだ。
短篇『薤露行』でこの絵が触れられている。

ウォーターハウス_人魚
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《人魚》王立美術院、ロンドン
人魚が歌を唄いながら髪を梳く姿を詠んだテニスンの詩より。『三四郎』に画集でこの絵と思われる絵を見る場面がある。
白磁のような艶っぽい肌とやわらかな金属のような質感のうろこ。波の音に交じって人魚のやや悲しげな歌声がところどころ聴こえてくる。情感豊かで心を揺さぶられる。

ほかに、ターナー《金枝》ミレイ《ロンドン塔幽閉の王子》ロセッティ《レディ・リリス》などがあって、西洋美術だけで十分に満足できるのに、日本美術のこんな重要作まで。

酒井抱一_月に秋草図屏風
酒井抱一《月に秋草図屏風》東京国立博物館寄託
《夏秋草図屏風》に並ぶ酒井抱一の最高傑作。『門』にこの屏風をモデルにしたとみられる屏風の描写がある。凡人からすると、この作品を小説に登場させて語ってしまうなんてことは、たいへんな挑戦だなと思ってしまう。さすが文豪。

夏目漱石の美術世界。やはり創作を生業とする漱石に似合うのは小説の文脈に巧みに紛れ込ませた美術作品だと思う。美術批評や漱石自筆の絵にはとくに感じるものはなかった。
漱石と美術に興味があればもちろん、漱石にしか興味がない、美術にしか興味がない、そのどちらでも十分に満足できる、展覧会ならではの空間を活かした濃密な展覧会だった。


2013.06.26 Wednesday

宗達を検証する(1)宗達画の『かたち』と『こころ』

Bunkamura ブックショップ ナディッフモダン主催
連続講座『宗達を検証する―友人角倉素庵の視点から絵師宗達の真実に迫る―』
6月22日 於:Bunkamura B1特設会場

宗達を検証する

琳派の作品群はもともととても気に入っているし、それらをみるとき、この国に生まれ育った自分の血のなかに潜んでいる何かが反応する、なんて言うと大袈裟だけれども、いつもなんかそんなような気がする。尾形光琳も酒井抱一もすばらしいが、そういう反応の仕方で言えば、個人的には俵屋宗達が一番なのだ。その理由は単なる好みということで説明できると思うが、それと同時に、宗達という人物のことがまだよくわかっていない(生没年も不詳)という、ミステリアスな部分にも興味が惹かれるからだろう。
美術は好きだけども、この頃は関心がなにげに薄くなって、ただ絵を眺めて楽しむ、という見方になっていた。せっかくだからこの機会に、いちどリセットして、美術への向き合い方をあらためて考えてみてもいいかもしれない、そんな気分もちょっとあったりして、参加することにした。

講師は林進氏。大和文華館学芸員を務めていたこともある美術史専攻の先生。話は脱線気味になって、多少とっちらかったりもするが、語り口は楽しい(初回ということもあって、予定時間を30分以上オーバーした)。

まずはじめに、講義を聴いた、ただの宗達好きが自分勝手な解釈でまとめた記事であることをお断りしておく。

第一回 序章 宗達画の《かたち》と《こころ》―重要文化財「田家早春図扇面」を読み解く―

講座を始める前にまず、講師の出身地、直島についての話(静かでいいところなんだけど、最近は観光客やら外国人がたくさん来て、なんか違う)があって、そのなかで、石井和紘設計の直島町役場に触れる。西本願寺飛雲閣などから《借用》した町役場だが、ただ外観を引用しただけでなく、開放感あふれる空間を同様に引用したことに注目−−というところから講義は始まる。

ということで、まず配付されたテキストから〔宗達画の特徴〕についてまるまる引用してみる。
  宗達は、絵画制作に際して、しばしば先行作品から図様の《借用》(引用、剽窃)を行った。色紙形、短冊形、扇面形の小画面に、モティーフを大胆に構図し、色彩の効果的な配置も絶妙である。宗達は、モティーフの動植物の《かたち》を単純化し、典型化した。対象を描く宗達の視点は自在であり、構図は斬新である。
  宗達画の主題は、「死と再生の輪廻」、すなわち神道でいう「死生観」、仏教でいう「無常観」を表した作品が多い。宗達は、この宗教的テーマを、日常、身辺で眼にする親しい《景物》でもって表した。宗達画を享受する当時の人々は、その意味をよく理解していた。

第一回講座は、「絵師宗達は、先行する古い絵巻(の模本)から、図様の《かたち》と《こころ=意味内容》を借用して、新たな独自の絵画世界を創造した。」として、醍醐寺《扇面貼交屏風》(扇面散貼付屏風)のうち「田家早春図扇面」を取り上げた。

山根有三らは、扇面のゆったりした特殊性を活かした構図のおもしろさや技法的な理由からこれを扇面の最高傑作と評価したが、描いた宗達同様、当時の人々がこの扇面を理解したはずの意味内容が考慮されていないのは疑問だ。日本美術評論が、造形やら目に見えるものだけで判断しようとしがちだ。

田家早春図扇面
この扇面は、茅葺屋根の田舎家、裏山の土坡など、先行作品の図様を借用して構成されている。
先行する作品で描かれているのは、生と死、死と再生、人の一生などだ。例えば梅は誕生、水は人生を表している。
執金剛縁起絵巻_上巻第二段絵
東大寺《執金剛縁起絵巻》上巻第二段絵「嬰児の良弁が金鷲にさらわれる場面」では、鷲を追う母親が描かれている。この母親はどこから出てきたというと、出産姿をしていることから、母屋からではなく産屋とした納屋から出てきたわけである。当時、出産は忌みであり、納屋、厩や牛小屋、あるいは母屋の一部に場所をこしらえたり、住民共同の産屋を使ったりして日常から隔離していた。
その他、さまざまな先行作品で出産と墓場、人生の坂道=人生の階段(六道珍皇寺《熊野観心十界図》など)が描かれ、人生の無常を表した。
《田家早春図扇面》には茅葺屋根の田舎家が右に二棟あるが、そのひとつは産屋と考えられる。そして、絵巻の紅梅は扇面では山桜となって同じ形に描かれることで、これも〈誕生のモティーフ〉となっている。そして東大寺本絵巻にある水は扇面で川の激しい流れとなり、水の流れ、つまり〈人生のモティーフ〉となっている。
こうしたものが表すモティーフを当時の人々は共有していたと想定され、すなわち《田家早春図扇面》で示されたものは、世に永遠のものなし、形あるものは必ず滅する、人は生まれてやがて死ぬ、という「無常」であり、生きている間は一生懸命に生きる、ということだ。
《田家早春図扇面》で宗達は先行する絵を借りてきて、対象や構図という「かたち」の表現だけでなく、「こころ」を別の形で表現したのである。

醍醐寺本《扇面貼交屏風》では死と再生、六道輪廻の意味を込めた構成がなされている。
六道輪廻で言えば、聖衆来迎寺本《六道絵》のうち「人道無常相」では数々の〈無常のモティーフ〉が、「山に入る太陽」「満月」「散り行く紅葉」「谷川の水の流れ」「海の満ち潮(引き潮)」の形をとって描かれている。
醍醐寺本《扇面貼交屏風》では、《六道絵》の「人道不浄相」のモティーフが「犬図扇面」に、「畜生道」のモティーフが「鵜飼図扇面」「重い柴を運ぶ牛図扇面」「荷車を索き、川を渡る牛扇面図」などに活かされている。

――と、最後は駆け足で終了。

講義の内容は、誰かがブログあたりでしっかりまとめてくれると信じていたので、他人任せに呑気に聴いていて、メモもあまり取らなかった。ところがネットをふらついてもこの講座について触れているものがほとんどないようなので、一応まとめてみることにしたが、そんなわけでかなりうろ覚えである。講義の大まかなところは以上のようなものだったと思うが、流れをうまく掴めていないので話が前後したり、微妙なところをこじつけたりしている気もする。
このまとめ自体がとっちらかって怪しくなっているので、そんなんじゃなかったよ、などとご指摘いただければ幸いです(一度まとめてしまうと、次もやるんでしょ、となるのがこわい)。

そして講師からの宿題。《舞楽図屏風》の主題は何か? 次回までにちょっと勉強してみます。

 


2013.06.02 Sunday

オディロン・ルドン@損保ジャパン美

損保ジャパン東郷青児美術館「オディロン・ルドン 夢の起源」2013.4.20-6.23

ルドン展@損保美

ルドンの作品については、Bunkamura ザ・ミュージアム「ルドンの黒」展で初めてまとまった数を観て以来、ちょこちょこといろんなところで出会ってきた。そのほとんが岐阜県美術館所蔵作品なので、ちょっと見慣れてしまったかもしれない(同じタイトルの画材違いやバージョン違いのようなものを誤解しているところもあるかもしれない)。そのせいで、これはという作品がないと、物足りなさを感じるようになっている。
本展でも岐阜県美術館のコレクションが中心だが、生まれ故郷にあるボルドー美術館から多数の作品が来ているので、いくぶん目新しさがあった。

黒の時代にも、色彩のある絵を描いている。油彩画《風景》やパステル画《ブルターニュの風景》はタイトルは風景だが、そこに描かれているのはおそらく心の風景でもある。
また、宗教や文学をモチーフにした《宗教的場面:キリストと使徒たち。アラスの礼拝堂装飾のための習作》《ロンスヴォーのローラン》《十字軍》などは、この時代の作品のなかでも象徴主義が感じられて魅力的だ。

黒の時代の版画たちには、シリーズ毎にそれぞれの特徴があると思う。個人的には石版画集『エドガー・ポーに』が好みだが、今回はこれら版画集については眺めただけ。
あと、版画集『悪の華』からも展示されているので、アニメ『惡の華』でボードレールの詩集に関心をもったのなら、ご覧になってみてはいかがだろう。

最後、「色彩のファンタジー」と題された展示。なんども観てきた作品については割愛するが、色彩のルドンはパステルの鮮やかさが合っていると思うので、パステルっぽい鮮やかな色で描かれた油彩画はまがいもののように見えてしまうのが微妙だ。
《アーケードのある背景の若い娘の肖像》はグレーの下地にサンギーヌという赤チョークがおだやかに調和していて美しかった。
最後を飾る《聖母》はルドンが永眠したとき、イーゼルに載せられていたという。空白部分があり、未完とされるが、果たしてほんとうに未完なのか。ルドンのなかでは十分に完成していたのではと思われるほど、美しく静かな色と豊かな精神性が溶け合っているようだ。もしかして、ルドンは黒から色彩を経て、ここに到達していたのではないだろうか。
ルドン_聖母


2013.05.11 Saturday

貴婦人と一角獣展@国立新美

国立新美術館「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」

タピスリーにはあまり興味はないけれど、これは見逃してはいかんのですよ。というのは、パリで寄ったのに、ストのせいで入れなかった苦い経験があるので、リベンジしなければならないのです。そのことについてはこちらで少し触れています。

貴婦人と一角獣展
展示室に入ってみると、天井が高くて広い空間が6枚のタピスリーで埋まっているのだから、驚きの大きさだ。

貴婦人と一角獣_触覚貴婦人と一角獣_味覚貴婦人と一角獣_嗅覚
貴婦人と一角獣_聴覚貴婦人と一角獣_視覚貴婦人と一角獣_我が唯一の望み
六連作タピスリー《貴婦人と一角獣》
有力者ジャン・ル・ヴィストが注文主とされ、旗や盾にル・ヴィストの紋章である3つの三日月が描かれている。獅子とユニコーンも同家に関係しているようだ。
《触覚》《味覚》《嗅覚》《聴覚》《視覚》の五感と《我が唯一の望み》がテーマになっていると考えられている。《我が唯一の望み》は愛や知性などと考えられているみたいだが、五感を描いた首飾りを小箱から出すところなのか仕舞うところなのか、このタピスリーから始まるのか終わるのか、謎に包まれている。
ひとつひとつに見どころが多く、飽きることがない。オレンジや松など4種類の木、文様にもみえる植物、五感を象徴したりもする動物たちなど。とくにウサギがたくさんいて愛らしい。ヤギも一頭だけいた。
よく見てもなかなかわかりにくいが、デジタル映像でアップで見ると、貴婦人の顔もずいぶん違う。正直あまり美しい顔じゃないところが残念ではあるが、全体を見ると、そんなことはまったく感じない。
構図もタピスリーへの収まり方がそれぞれに違って、例えば初め、《味覚》がいちばん美しいように感じたが、観ているうちに甲乙つけがたくなって、どれがいいのかわからなくなった。細かく観察するのもいいが、6枚を見渡せる中央に立ってぐるぐると自分が回っていくと、不思議な気分になるので、おすすめかもしれない。

ほかに彫刻、装身具、ステンドグラスなどが展示され、それが《貴婦人と一角獣》を観る参考になるので、関連展示を見てから、もう一度、6連作タピスリーの間に戻るといいだろう。

日本でこのタピスリーが見られるのはたぶん奇跡のようなことだろうから、せっかくのチャンスを逃さないようにしないと。パリで観ようと思ってもストで入れなかったりするかもしれないからね。


2013.05.04 Saturday

アントニオ・ロペス展@Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム「現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス展」

アントニオ・ロペス展アントニオ・ロペス展2
季節もよく天気もいいので、自転車をちんたら漕いで観てきた。自転車はBunkamuraすぐ裏のアットパーク渋谷宇田川町に置いて、1時間100円で戻るつもりが、少々超えてしまい200円支払うはめに。ぬかった。

アントニオ・ロペスのことは名前くらいしか知らなくて、ルーベンス展に寄ったときに次回の展覧会と知り、ぜひ行ってみようと決めていた。
その理由はチラシの少女の絵に惹かれたからだ。これ一枚だけでもいいから、みたいと思った。

アントニオ・ロペス_マリアの肖像
アントニオ・ロペス《マリアの肖像》
長女9歳のときの素描。チラシでみたときにはまさか紙に鉛筆だとは思いもしなかった。コートの質感と重みが緻密だし、紙がセピア色のせいかもしれないが、てっきり油彩画だと思い込んでいた。近寄って見ても、鉛筆画とはにわかには信じられなかった。
少女の透明で理知的な眼差しから目を離すことができない。自分が描かれていることや、父親が描いていること、さまざまな感情を表情と佇まいのなかに見ることができる。「現代スペイン・リアリズム」というのは作風や技法のことを云うのではないということだ。
「ロペスは、素描を油彩画の準備段階としてではなく、完全に一つの独立したジャンルとしてみなしている」(Bunkamura ザ・ミュージアムの展覧会特集ページより)というのが、疑いなく感じ取れる、そんな完成度をもっている。
ふだんはポストカードくらいしか買わないのに、額絵とマグネットまで買ってしまった。いつも目の届くところに置いて眺めたいと思ったから。

素描はほかにもいくつかあって、なかでも《バスルーム》のリアルな美しさとその大きさには圧倒された。

アントニオ・ロペス_グラン・ビア
アントニオ・ロペス《グラン・ビア》
緻密に描かれた街の風景もすばらしいが、カラフルなものより、この作品のような、落ち着いた色味で統一されている作品に、より魅力を感じる。墨絵に通じる、静謐さのような。
《アビラのバラ》などにみられる余白も何やら東洋的な印象だ。
グラン・ビアに話を戻すと、ほかの作品にもみられるように、曲がった道に視線が誘導される風景に心惹かれる何かがロペスにはあるのだろうか。

アントニオ・ロペス_眠る女(夢)
アントニオ・ロペス《眠る女(夢)》
今回もっともインパクトを受けた作品。木彫による立体感が生々しくて、穏やかな寝顔に美しさがあるのに、気持ち悪く感じるほどだ。画像では何も伝わらない。


名前程度で漠然としたイメージしかなかったアントニオ・ロペスを心にしっかりと刻み込むことができた展覧会に感謝したい。
僕は《マリアの肖像》という一枚の鉛筆画の魅力にすっかり取り憑かれてしまったのだ。

2013.03.31 Sunday

ルーベンス展@Bunkamrura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」

ルーベンス展
ルーベンスがそんなに人気があるとは思ってもいなくて、訪れてみると、なかなかに混んでいてびっくり。バロックの巨匠とされるルーベンスが人気がないわけがないし、とくに日本では「フランダースの犬」でも有名なんだから、侮ってすみませんでしたー。
個人的には、ルーベンスの画風がとくに好きというわけではないし、ぶよっとした身体というか脂肪の表現がまあ、苦手なんですよね(その程度のことなんですが)。
ならどうして観に行ったのかというと、やっぱりルーヴル美術館で観た巨大な作品群に圧倒された記憶がいつまでも忘れられなくて、やっぱり観ておかないと、と思うからでしょう。そのときの記録はこちら→ルーヴル美術館(その2)

本展のみどころのうち、自分がもっとも興味深かったのは、ルーベンスの工房で作品がどうやって制作されていたかが展示をみていくとわかるようになっているところ。ティツィアーノに多くを学んだというのは意外だった。
工房作品には、ルーベンス自身が、例えば全体のうち人物だけを描いたもの、最後に手を入れたもの、信頼出来る助手にすべて任せたものなんかがあったそうだ。工房の助手たちにはルーベンスと同じように描くことが求められたというのだから大変だ。また、工房に所属していない作家との共同制作もあって、ルーベンスが確立した優れて効率的な大工房運営システムこそが成功の理由だったことが納得できた。

ルーベンスの魅力は、躍動感と生命力にあふれたダイナミックな構図にあると思う。ときに画面が散漫になって焦点がぼやけたりするのが難点だが。とにかく、大画面でこそ、ルーベンスの魅力が発揮されると勝手に思っているので、大きな作品があまりない本展はやはり物足りない。仕方のないことだとはわかっていますが。
それでも、《ヘクトルを打ち倒すアキレス》《復活のキリスト》等々、油彩画の多くが日本初公開らしいし、観る価値は十分だった。版画作品にも油彩画から取り入れられたものもあって、みどころは多い。

でもって、いちばんよかったかなと思うのはこちらの作品。ルーベンスじゃなくて工房出身者ですが。
ヴァン・ダイク_悔悛のマグダラのマリア
アントーン・ヴァン・ダイク《悔悛のマグダラのマリア》
顔立ち、表情、肌の色が美しいし、肉体の波打ち具合にルーベンス的なものを感じるけども、嫌な感じがしない。

ルーベンスが好きな方、「フランダースの犬」に想い出がある方、ダイナミックなバロック絵画に興味がある方、いろんな興味で出かけて行ってほしいですね。
グッズも充実していて、「フランダースの犬」関連のものもいくつかあって楽しい。目玉作品のひとつ《ロムルスとレムスの発見》から、三粒のさくらんぼを運ぶキツツキが図案化されてグッズにいろいろと使われていました。
レンブラント展キツツキ

2013.03.12 Tuesday

ラファエロ展@西美

国立西洋美術館「ラファエロ」 2013.3.2-6.2

ラファエロ展

ラファエロ展初日に行って来ました。って、もう10日も経ってる!(ブログ記事書かない癖がすっかりついてしまったので、もうやめようかと思ったりしたけど、どうにかこうにか書き始めて)。
当日は別の展覧会に行く予定だったんですが、間抜けな展開になって、急遽予定変更して西美に向かったわけです。
館内に入るといきなりの行列で!!となったのですが、これは講演会参加者の列だったみたいでほっとしたのも束の間、ロッカーが全然空いてない。結局、入場口横のロッカーを確保して、ふと下を見ると、そこにも行列が! これも音声ガイドの列だったので一安心。
初日午前中のこの混み方を考えると、むしろ今観ておかないと、後々大変なことになるかもしれないと思い、いざ入場。
結局、群がっている作品も少し待てば観られたので、それほど混雑というわけでもありませんでした(美術館HPにも「混雑が予想されますので、会期前半でのご来館をおすすめしております。」とありますが、春休み中も混むのでは?と思ったり)。

日本で初のラファエロ展ということで、どんな作品でも十分しあわせなところかもしれないけど、目玉作品はやはりこちらでしょう。
ラファエロ_大公の聖母
ラファエロ・サンツィオ《大公の聖母》パレティーナ美術館
”聖母子の画家”ラファエロの最高傑作の一つとされる聖母子画。
気品と慈愛に満ちた聖母の顔と姿と、凛々しい顔の子。これ1点で満足。聖母子は顔に尽きると思う。黒い背景は、本来室内だったものが後年に塗り潰されたという。室内の背景もきっとすばらしいのだろうけど、この黒の背景、聖母子に集中できて神々しさが際立っているように感じられたので、僕的にはむしろよかった。
その素描《聖母子》と何度も観比べて堪能しました。この素描が本画の雰囲気をすでに掴んでいて、惚れ惚れしました。

あと、最後に展示されていた、たぶんベリン・デル・ヴァーガ《聖母子》だったと思うけど(メモ取ってないので、間違っていたらごめんなさい)、今にも「綺羅星☆」ってやりそうな瞬間にしか見えなくて困った。(不謹慎ですみません。スタードライバーに毒されているもので)。

ラファエロの作品は地味に見えても穏やかな味わいがあって、どれもすばらしかった。
ヨーロッパ以外で大規模なラファエロ展が開かれたことがなく、いろんな美術館から作品がやってきているので、ぜひたくさんの人にみてほしいので、短い感想ですが、なんとか記録に残しました。



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