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2013.12.31 Tuesday

2013年の美術展ベスト3

みにいった展覧会がこれだけ少なくなって、果たしてベストを決めたりしてよいのだろうか、などと思わないでもないが、まあ一応恒例なので、やはりこれで締めくくらないと新たな年をむかえられないでしょう。なんて。

第1位 夏目漱石の美術世界展(東京藝術大学大学美術館)
夏目漱石の美術世界展
夏目漱石を軸に美術作品を集めるという企画がとてもおもしろいし、なにより展示そのものが楽しく刺激的に構成されていて、展覧会としての完成度が高かったと思う。ウォーターハウスの2点も来日していたし。

第2位 アントニオ・ロペス展(Bunkamura ザ・ミュージアム)
アントニオ・ロペス展アントニオ・ロペス展2
アントニオ・ロペスの名前しか知らなかったのにチラシで見た《マリアの肖像》に魅せられて展覧会に足を運び、この作家に触れた。そういう展覧会との幸運な出会いに感謝している。

第3位 和様の書(東京国立博物館平成館)
和様の書
書を自分がどれくらい楽しめるのだろうかと思いつつ出かけ、和様の書の美しさ、多様さ、そして個性に触れ、日本語の見た目の美しさにうっとり、眼福にあずかった。

次点 貴婦人と一角獣展(国立新美術館)
貴婦人と一角獣展
6枚の巨大なタピスリーが広くて高い空間を埋めているその景色だけでもう圧倒された。その展示空間にいる不思議な感覚こそが、この展覧会を何か得難いものにしてくれた。
カイユボット展と迷ったのですが。


みた展覧会は年々減っていくばかりで、みのがして悔いを残すこともしばしば。今年ちゃんと行けばよかったと思う展覧会のいちばんは京都展(東博)かな。
毎年同じことを書いているけど、後悔しないように来年はもっと展覧会に出かけたいものです。
ではみなさん、よいお年を。

2013.12.01 Sunday

モローとルオー@パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアムで「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」をみた。
モローとルオー展
ギュスターヴ・モローとジョルジュ・ルオーはパリの国立美術学校の教授と生徒として出会い、生涯の師弟関係となった。モローはルオーの才能を伸ばそうと助言するだけでなく、自らもルオーから学び、刺激を受けていた。
往復書簡では筆不精な弟子に不満を示したり、言葉の使い方を指摘するモローがおかしいが、そんなところにも信頼関係がみえる。

初期のルオーはモローの作品のにおいがする作品を描いていたようにみえ、そのせいか、モロー亡き後に確立する画風よりも、モロー好きからすると好ましく感じられた。
モローは自らが理想とするモチーフを一貫して追い求めながら、その理想へとさまざまな試みをしていたようだ。パリのギュスターヴ・モロー美術館を訪れると、画面がすべて埋まっていない作品が多いが、そうした作品も、いわゆる完成作とくらべて見劣りするかとういうと、そういうことは一切なく、どれも輝いてみえる。本展でも、下絵や習作がいくつか展示されているが、やはり、まだ途中だななんて感想ではなく、こういうひとつの過程もひとつの形で、それとは別に本作が出現するといったようなものに感じられるくらい、下絵や習作自体が魅力をもっているのだ。
モロー28歳の《ピエタ》(岐阜県美術館)の、荒涼と静寂の光景の美しさ、《《サロメ》のための習作》(モロー美術館)、数点の《油絵下絵》と、どれもそれぞれに確固たる魅力をたたえている。未完成作も完成作もなく、その一つ一つの作品に制作しているモローの想いや目指すものが色濃く表れているから、強い印象を受けるのだろうか。
サロメのための習作
《《サロメ》のための習作》
トミュリスとキュロスまたはトミュリス女王
《トミュリスとキュロスまたはトミュリス女王》

ギュスターヴ・モロー美術館を訪れたときの記事はこちら


 

2013.11.09 Saturday

カメラと目と@カイユボット展



ブリヂストン美術館で開催中の「カイユボット展―都市の印象派」(2013.10.10-12.29)は、なんとも魅力的な展示構成だった。
ギュスターヴ・カイユボットを印象派の重要作家として位置づけ、画家によって描かれた移りゆくパリの姿や自然の風景に、同様にそれらの風景・光景をおさめた弟マルシャルの写真、さらに親交のあった印象派画家たちの作品を交えて、都市と郊外と人々の生活が織りなす時代を鮮やかに浮かび上がらせた。

“カイユボットの近くに写真があった”ことが強調されていたように、カイユボットはカメラによって切り取られたものと自分自身の目が捉えたものを照らし合わせ、組み合わせたりしながら、構図を練ったのではないかと思えた。
この兄弟の作品から受ける印象は、経済的な憂いなく、暮らしを人生を楽しんだ、おだやかな生活である。そのおだやかで誠実で親密な視線が街や人々に向けられている、そんな作品たちにたまらなく惹きつけられる。
床にパリの地図を敷いて、カイユボット縁の地点にデジタル・ディスプレイを配置した、パリ部屋とでもいうべき展示室まで据えられ、画家たちの作品、写真、現在のパリの写真によって、私達はパリへと誘われる。


2013.09.28 Saturday

竹内栖鳳展@東近美

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竹内栖鳳展をみて感じたのは、写生を出発点としながら、対象がもつ本質を浮かび上がらせるかたちを追求しつづけた画家の姿勢だ。さまざまな流派の技法を学びながら独自の表現を模索し、やがて西洋画の写実的な表現をも取り入れて、伝統的な日本画との融合に挑む。日本画でも西洋画的な写実表現ができることを、ライオンをはじめとする多種多彩な動物や風景によって示し、さらに、みる人間とみられる対象があってはじめて絵がうまれるという関係性を描いているようにもみえた(まるで量子力学の観測問題みたいですが)。

晩年にはそうしたかたちと対象がもつ本質が絶妙なバランスで調和し、融合しているようだった。蓮池に泳ぐ鴨たちを描いた《秋興》では蓮の葉を伝統的な素朴な線でかたちを捉え、白緑をあっさりと置いているのに対して、鴨は《班猫》のようにやわらかな羽毛を精緻な筆で描いている。さらに晩年になると、かたちは最低限の線だけで絶妙に表現され、画面から音や空気、いきものたちがもつこころのような何かを伝えている。

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竹内栖鳳の画業をたどるにあたって、これだけたくさんのすばらしい作品を通じて作家の変遷と挑戦に接することができたのはうれしいことで、とくに晩年の作品の多くに魅了されたことが自分にとっては大きな驚きだった。

 

竹内栖鳳展  近代日本画の巨人

東京国立近代美術館  2013年9月3日-10月14日

 

このあと平成25年度第2回所蔵作品展「MOMAT コレクション」をみた。狐たちのいる景色が静かな山口華楊《月夜野》と、新収蔵作品の速水御舟《京の家・奈良の家》(建物のかたちと構成がユニークで、フランボワーズ色の壁が目を引く)が同じ室にあって、行ったり来たりしながら何度もながめた。

 JUGEMテーマ:アート・デザイン


2013.09.22 Sunday

夏秋草図屏風@東博平成25年度秋の特別公開

東京国立博物館 平成25年度 秋の特別公開 9.18-9.29

東博H25年度秋の特別公開

秋の特別公開がやってきた。2週間限定公開なので、ぼやぼやしていていつも見逃してしまうので、今回は合格。

なかでも目当てはもちろん、こちら。
酒井抱一_夏秋草図屏風
酒井抱一《夏秋草図屏風》
約3年ぶりの再会だったので、うれしかった。
夏草図も秋草図もどちらもすばらしいのだが、今回、とくに風神の裏に描かれた、秋草が強い風に吹かれてしなっている様子、宙を舞う草の様子などを繊細な筆でみせている左隻の儚さに強く惹かれて、見入ってしまった。何度みても発見があり、何時間でもみていたくなる。
前回の出会いはこちら

酒井抱一_四季花鳥図巻02酒井抱一_四季花鳥図巻01酒井抱一_四季花鳥図巻03
酒井抱一《四季花鳥図巻》下巻
適当な写真で失礼。どこをとっても、頬が自然と緩むようなほっかりした感じがする意匠と魅力的な場面ばかり。横に流れるような仕掛けでみられたらどんなに楽しいだろう。

伝俵屋宗達_扇面散図屏風
伝俵屋宗達《扇面散図屏風》
季節のいろんな様子が描かれた扇面を絶妙の配置で散りばめている。扇面からはみ出しているモチーフの構図がどれも魅力的。

ほかにもたくさんすてきな作品があって、久しぶりに東博を堪能した。

そのあと、こちらの2階席でコーヒーとケーキをいただいて帰りました。
黒田記念館別館上島珈琲店
黒田記念館別館 上島珈琲店


2013.08.07 Wednesday

モネ、風景をみる眼@ポーラ美術館

ポーラ美術館 ✕ 国立西洋美術館 共同企画 「モネ、風景をみる眼 19世紀フランス風景画の革新」を箱根のポーラ美術館でみた。2013.7.13-11.24(西美での同展は2013.12.7-2014.3.9に開催)。
展覧会公式ホームページ

モネ、風景をみる眼
箱根に一泊旅行することに決めたとき、それなら一度も訪ねたことがないポーラ美術館に行こうということになった。たまたまこの企画展が開催されていたのだが、本音をいうと常設展がみたかった。そうそう行く機会があるわけではないから。

この展覧会は国内有数のモネ・コレクションで知られる両館が共同で企画したもので、ポーラ美術館にとってこれだけの規模の企画展は初めてで、西美にとっても私設美術館との共同企画も初めてだとか。同展は両館でそれぞれ開催されるが、同じ内容ではなく、それぞれの美術館の特徴を打ち出していくのだとか。
これはなかなか意義深いことだし、常設展示がみたかったなんてバチあたりなことを言ってはいけないかもしれないなー。

ポーラで所蔵作品のほとんどは初めて目にしたものだが、西美所蔵作品でも初めてみる作品がいくつかあって、ポーラ、西美ともに、持ってるなーという印象(いくつもの作品が箱根に出張している西美のモネ部屋は、いまどうなっているんだろう)。

モネ_バラ色のボート モネ_舟遊び
左:クロード・モネ《バラ色のボート》1890年 ポーラ美術館
右:クロード・モネ《舟遊び》1887年 国立西洋美術館
共同企画ということで、両館が所蔵する作品を並べて比較するなんてことが実現している。例えばこの、ボートに乗る少女を描いた作品2点。
ともに、モネがのちに再婚するアリス・オシュデの娘たちを描いたものだが、制作年代が左から右に移っているように感じたが、実は逆だということに驚く。

モネ_サン=ラザール駅の線路
クロード・モネ《サン=ラザール駅の線路》1877年 ポーラ美術館
この駅の風景もモネはよく描いている。影に色がついていくのをよく目にするだけに、煙の色が白いのが不思議な気がする。

モネの眼は観察の眼、印象・心象の眼が混ざり合ったモネだけの眼だ。
この展覧会には、モネだけでなく、同時期に活躍した作家たちの作品もたくさん出品されていて、印象派、象徴主義など、時代が動くなかでモネの位置、画風がどうなっていったか、という点もみどころのひとつ。
エドゥアール・マネ《花の中の子供(ジャック・オシュデ)》ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ《貧しき猟夫》などもお越しだし、それぞれに比較する絵があてがわれている。

作品リストを作っていないということなので、必要な方はメモをとり忘れないように(自分はまったくメモをとりませんでした。いつものことですが)。


レオナール・フジタ@ポーラ
あと、新収蔵作品となった藤田嗣治の3点が公開されていて、このうち《グロテスク》《シレーヌ》は世界初公開だそうだ。なんともいえない味わいの2点でありました。

ポーラ美術館

一度は行かなきゃと思っていたポーラ美術館をようやく訪ねることができて満足。ただ、常設展示がみられなかったので、宿題にしようと思う。それと芦ノ湖の海賊船に乗って近くまで行ったのに入らなかった成川美術館にも今度こそ行かないと。

2013.07.31 Wednesday

レオ・レオニ 絵本のしごと@Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム「レオ・レオニ 絵本のしごと」
2013.6.22-8.4
レオ・レオニ 絵本のしごと

「宗達を検証する」第二回講座の前にみておこうとチケットを購入して入場(並ばずに買えたけど、講座を終えて帰るころには、チケット売場に長い行列ができていて、おそれおののいた)。
入口付近に人がたまっていて、というよりは、壁沿いに蟻みたいな列をつくっていて、困った展開になっているなーと思いつつ、後ろからちょこっと覗きこみながらさっさと進む。すると隙間ができはじめていたので、わりと楽にみられる状態だった。

実はレオ・レオニという名はこの展覧会の予告ではじめて耳にした。
おはなしはどれも、教訓めいたいやみがなくて、おもしろそう。絵は、コラージュやら鉛筆、色鉛筆、水彩、油彩、クレヨンなどの技法を使いながら、シンプルな構図で描いた。さすが「色の魔術師」というだけあって、センスを感じさせるバランスのとれた美しい色使い。
そして魅力的、というか可愛らしいキャラクターが人気の理由なんだろう。とくにねずみがものすごくかわいい。自分は展示されていた作品のなかで絵という視点で『みどりのしっぽのねずみ』がいちばん気に入った。

たくさんの親子がいて、ひとりでみた自分はなんだか浮いているように感じた。とにかくすごく人気があるのはよくわかりました。ポストカードを買いたかったけども、混んでて断念。それでもまだ空いている時間帯だったことに後で気づくわけですが。
感想にもなんにもなっていないけど、いちおう記録だけ。 

2013.07.21 Sunday

和様の書@東博平成館

東京国立博物館平成館特別展示室 特別展「和様の書」2013.7.13-9.8

和様の書
絵をみるようになって、いろんなかたちで書に接する機会が増えたおかげで、書にも多少は関心をもつようになった。子供のころから習字がへただったので、書道をやってみようと思ったことはないけども(習字と書道を同列にしている時点でアウト!)

「和様の書」とは、中国からもたらされた書法を日本の文化の中で独自に発展させた、日本風の書のことです。平安時代中期以降に社会制度や文化の和風化が進むと、日本独自の仮名が生まれ、仮名と漢字が調和した「和様の書」が展開していきました。[展覧会チラシより]

どうやって感想を書こうかと思っていたところ、東博の展覧会詳細ページだけでなく1089ブログでもいろいろと解説しているので、そちらを参照すれば、もうそれでいいでしょ! 記事を書こうとすればまず誰もが触れたくなる内容が網羅されている。
和様の書の成立(10世紀頃)に貢献した三跡(小野道風、藤原佐理、藤原行成)の書、戦国時代の天下人(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)の自筆の書、四大手鑑(鑑定するための筆跡をアルバムにしたもの。なかみはもちろん、アルバムに自体も立派)、《平家納経》と、みどころ満載。出展作品約150点のうち約80点が国宝・重要文化財というのだから。
世界最古の自筆日記として世界記憶遺産に認定された藤原道長『御堂関白記』も認定後初公開。

和様の書は中国の書とくらべて、柔和で優美という。そのあたりを意識しながら、さらにひとりひとりの個性をみくらべ、人となりなんかを想像していくのが楽しい。
藤原行成_白氏詩巻(部分)
藤原行成《白氏詩巻》(部分)
1089ブログで「いわゆる和様の書の完成した姿」として取り上げられている。美しいです。こういう漢字にひらがなが交ざって調和している書の美しさといったら。
書だけでも美術品と思われるものもたくさんあったが、料紙もどんどんと多様になって、その調和によって美術品としかいいようのないものが登場する。だいたい書のほうはほとんど読めないのだから、美術品として眺めるしかないんですけどね。

展覧会は空いていたけど、これ、みのがしたらもったいない。和様の書の歴史を感じながら、お気に入りの美しい書をみつけてみよう。書をやりたくなるかも。
展示替えが、作品によってはけっこう頻繁にあるので、もしみたいものがあるなら、展覧会詳細ページでよくチェックしましょう。

2013.06.30 Sunday

ファインバーグ・コレクション展@江戸博

江戸東京博物館「ファインバーグ・コレクション展―江戸絵画の奇跡―」
2013.5.21―7.15
江戸絵画の奇跡

米国のファインバーグ夫妻が蒐集してきた江戸絵画を中心とする日本美術のコレクションから約90点が里帰り(これって重ね言葉かな)。
若いころにメトロポリタン美術館で目にした江戸絵画に感銘を受けてコレクションを始めたそうだが、自分の目を信じて蒐集しながら、さらに見る目を養っていったんだろうな、などと想像すると、まぶしい。

琳派
最初に目に飛び込んでくるのは俵屋宗達の掛け軸《虎図》。丸っこくてユーモラスな虎が半身だけ見せるという構図が抜群。よくみると細かな毛が無数描かれていて、毛並みの柔らかさを生み出している。
酒井抱一《十二ヶ月花鳥図》はほかにもいくつかあるが、どれも貫禄の出来。すべてが一堂に会する機会があればどんなにしあわせだろうと思う。
鈴木其一《群鶴図屏風》。其一らしい奔放なデザイン性が生み出すリズムがみごと。これは大琳派展でみたのと同じじゃないかなと思ったら、そうだった。あのときにも来日していたのか。
鈴木其一《山並図小襖》《松島図小襖》も大胆にデザイン化され雄大な広がりが感じられる。
鈴木守一《平経正弾琵琶図屏風》は背景がこげ茶になっているが、銀箔らしくて、これが銀色に光っていたらさぞかし魅力ある画面になっていただろうと思うと残念だ。

文人画
文人画、南画のたぐいはやや苦手にしているのだが、今回は、池大雅《孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風》の迫力ある筆使いに感心したり。
谷文晁《秋夜名月図》の落款のでかさには驚いたが、枯れた感じの画面に赤い落款が存在感を誇示していて、うまく馴染んでいた。

四条円山派
円山応挙《鯉亀図風炉先屏風》は裏に絹を張ってそこに水紋を描いて合わせた珍しいもの。水紋が広がっていくようにみえた。
珍しいといえば、竹内栖鳳《死んだ鶴図》は西洋画によくある、狩った獲物を吊るしたりした光景を日本画で描いたもので、西洋画ほどグロテスクではなかった。

このほかにも、奇想派の枠で伊藤若冲、曾我蕭白、そして浮世絵と、幅広く集めたものだなと感心する。江戸絵画というくくりでいえば、多岐にわたって優品が揃っているので、かならず気に入る作品があると思う。

残念だったのはショップのポストカードのほとんどが大判だったこと。展覧会でいつも何枚かポストカードを買うけど、大判だとファイルに入れられないので、今回は断念した。

2013.06.29 Saturday

夏目漱石の美術世界展@芸大美術館

東京藝術大学大学美術館「夏目漱石の世界展 Natsume Soseki and Arts」
2013.5.14-7.7
夏目漱石の美術世界展
夏目漱石の文学作品や美術批評に登場する作品などを集めるという刺激的こころみ。
漱石が日本美術に親しむ環境にあったこと、英国留学でラファエル前派をはじめとするイギリスの美術に触れたこと、それを血肉にして文学作品に落とし込んでいったことがよくわかると同時に、漱石の目を通して美術作品に再会することができる、文学と美術の絡み合いが知的興奮を誘う。
夏目漱石の小説はいくつかしか読んだことがなく、しかも遠い昔のことなので、そこに美術作品がどれほど登場していたかなんてことは全然おぼえていない(恥ずかしいかぎり)。しかしこの展覧会は、猫の我輩が主人と美術のかかわりを解説してくれたり、美術作品について書かれた漱石作品の部分が示されていたりして、読んでいなくても十分に楽しめる親切な構成になっている。

そもそもこの展覧会に行こうと思ったのは、なんといっても、ウォーターハウスの2点が来ているからだ。
ウォーターハウス_シャロットの女
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《シャロットの女》リーズ市立美術館
塔のなかで鏡を通してしか外の世界を見ることが許されない呪いをかけられた女が、ランスロット卿を追おうと運命に抗って直接外の世界へと向かったとたん、足に織物の糸が巻きつき、鏡にひびが入る。アルフレッド・テニスンがアーサー王の物語をもとに描いた詩より。
ウォーターハウスはこの題材でほかに2点を描いている。
動きのある場面と表情には彼女の渇望感のような焦った気持ちが色濃くあらわれ、部屋のなかの様子からは、そこが退屈な日常が遅々と進んでいく、世間とは隔絶された世界であることが伝わってくる。彼女は画面のど真ん中にいて、いままさに手前へと消えていこうとしているのだが、この先にある運命は死なのだ。
短篇『薤露行』でこの絵が触れられている。

ウォーターハウス_人魚
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《人魚》王立美術院、ロンドン
人魚が歌を唄いながら髪を梳く姿を詠んだテニスンの詩より。『三四郎』に画集でこの絵と思われる絵を見る場面がある。
白磁のような艶っぽい肌とやわらかな金属のような質感のうろこ。波の音に交じって人魚のやや悲しげな歌声がところどころ聴こえてくる。情感豊かで心を揺さぶられる。

ほかに、ターナー《金枝》ミレイ《ロンドン塔幽閉の王子》ロセッティ《レディ・リリス》などがあって、西洋美術だけで十分に満足できるのに、日本美術のこんな重要作まで。

酒井抱一_月に秋草図屏風
酒井抱一《月に秋草図屏風》東京国立博物館寄託
《夏秋草図屏風》に並ぶ酒井抱一の最高傑作。『門』にこの屏風をモデルにしたとみられる屏風の描写がある。凡人からすると、この作品を小説に登場させて語ってしまうなんてことは、たいへんな挑戦だなと思ってしまう。さすが文豪。

夏目漱石の美術世界。やはり創作を生業とする漱石に似合うのは小説の文脈に巧みに紛れ込ませた美術作品だと思う。美術批評や漱石自筆の絵にはとくに感じるものはなかった。
漱石と美術に興味があればもちろん、漱石にしか興味がない、美術にしか興味がない、そのどちらでも十分に満足できる、展覧会ならではの空間を活かした濃密な展覧会だった。



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