原安三郎コレクション
「広重ビビッド」サントリー美術館
何がビビッドだって? それは見ればわかります。
本展に出品されている〈六十余州名所図会〉と〈名所江戸百景〉の原安三郎の浮世絵コレクションは、なかなかお目にかかれない初摺の、しかも早い時期のものだとのこと。つまり歌川広重と摺師が一体となってつくりだした奇跡の浮世絵ということであり、その色の再現性、発色の鮮やかさ、線の鮮明さ、まさに絶品の数々。とくに藍の色の濃淡が深い。ちょうど2020年の東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムでも藍が使われ注目されていることだし、しっかりと味わいたいところ。
〈六十余州名所図会〉
いきなり《阿波 鳴門の風波》に度肝を抜かれる。渦潮、波、空の繊細なグラデーション。そこから怒涛の大判錦絵三昧。参考にした絵図を大胆にアレンジしたり、後の〈東海道五十三次〉〈名所江戸百景〉につながる片鱗がそこかしこに。
なかでもよかったのは《美作 山伏谷》。東海道五十三次の《庄野 白雨》をおもわせる構図。雨は相当大胆な表現だけども。
《壱岐 志作》の雪景色も繊細で味わい深い。
〈名所江戸百景〉
大好きなシリーズなので、これまでも何度もみてきた。今までみてきたのがどの程度の摺なのかさっぱりわからないけど、本展のそれらが絶品なのは間違いないところ。
《大はしあたけの夕立》はその中でもとくに好き。以前にみたものよりグラデーションの微妙なところが鮮やかに表現されている気がする(気がするだけかもしれないけど、たぶん)。
《亀戸梅屋敷》の朱は最高に鮮やかで美しいと断言できるくらいにすばらしかった。
《王子装束ゑの木 大晦日の狐火》もこれまでよく見えなかった細かなところまでしっかりわかったので、やはり摺がすばらしいのだと思う。
猫がかわいい《浅草田甫酉の町詣》は5月25日からの展示替で。
このほか、葛飾北斎の幻のシリーズ〈千絵の海〉全10図、《神奈川沖浪裏》《凱風快晴》《山下白雨》といった代表作など貴重な展示もあって、あっという間に時間が過ぎていった。
作家と彫師、摺師がそれぞの精一杯の技術で表現しようとした浮世絵の世界をぜひご堪能あれ。