竹橋の東京国立近代美術館で「安田靫彦展」をみた。
大好きな作家のひとりだから、描線の美しさや品のよさのことなど過去に散々書いてきたので、もうあらためて書くことがない気がする。
とはいえ、これだけ大規模な展覧会なので、初見の作品も多く、あれもいい、これもいい、と目移りした。《遣唐使》なんて、十代であれだけのものが描けるものなのかと思いつつも、すでに安田靫彦らしさが現れていることに驚いた。
個人的には、歴史上の一場面をどういう気持ちを込めてどう構成しているか、という点にいちばん興味が惹かれる。なかでも余白がしっかりあって、余白に意味が込められた画面が好きだ。ぴっちりと描き込まれたのもそれはそれですばらしい作品がいくつもあるけど、余白の深さに比べると見劣りする。それだけ余白に意味や情景が感じられるのが安田靫彦の特長でもあると勝手に思っている。
《黄瀬川陣》などはまさにその代表的なもので、人物や物以外の、地面さえほぼ描かれていない空間があるからこそ、人物に集中することができ、場面の緊張感の高まりをもたらしている。当然、余白を活かす構図の完璧さがあるからだろうけど。とにかく文句のつけようがない。
今回いちばん気になった作品は《孫氏勒姫兵》。何よりも計算しつくされた構図と色に目を奪われ、そしてその動きと表情に奥行きを感じ、さらにやはり背景がないことによる場の緊迫感の高まりに強い印象を受けた。
もう本を置くスペースがほとんどなく、図録は買わないようにしているのだが、安田靫彦作品が100点以上掲載されているとなると、買わずにはいられなかった。