損保ジャパン東郷青児美術館「アントワープ王立美術館所蔵 ジェームズ・アンソール ―写実と幻想の系譜―」
2012.9.8-11.11
仮面の画家アンソールに以前から興味があったので楽しみにしていた企画(だったが、以下の感想はがっかりの中身になっている。これは企画の問題ではなく、個人的な好みの問題であることはあらかじめお断りしておく。なので、この展覧会をみるつもりの方はこの先は読まないようにしたほうがいいでしょう)。
企画そのものは、アンソールがいろいろな絵画運動から影響を受けてさまざまな描き方に挑戦していたことがよくわかる展示になっている。
が、勝手な印象だけで云うと、この画家は技法とか見かけばかりにとらわれて、肝心の絵の表現が疎かになっているのでは、と感じた。外光主義とか取り入れようとした描き方などいろいろあれど、そうした表現の形式が、絵でなにかを表現するためのものではなくて、描き方や描く対象だけを追求しているというか、そんな感じ。とくに初期の写実的な絵を書いていたころに顕著だが、仮面や骸骨を描くようになっても、そんな印象が残っている。いずれにせよ、いろんな描き方を試しているわりに、どれも絵としての美しさがなく、魅力も感じられなかった。
仮面の作品がほんの数点しかなかったので、仮面の画家としての本領をみるまでには至らなかったが、もっと嫉妬や劣等感といった、負の内面がにじみ出るような作品を描いているのだと信じていた。ところが、数少ない仮面の絵からは、そんなものはやはり伝わってこず、やっぱり表面的という感じがした。
いつかたくさんの仮面や骸骨の作品をみる機会があれば、ぜひ出かけてみたいが、そうでなければ、アンソールは関心リストから外してもいいと思っている。
《陰謀》の左上にいる青い仮面の顔が、《首吊り死体を奪い合う骸骨たち》の右上にもいて、これを行ったり来たりしながら見比べて、おかしくて吹き出しそうになったことだけは記しておこう。この2点があったおかげで退屈せずにすんだのだから。