損保ジャパン東郷青児美術館「モーリス・ドニ いのちの輝き、子どものいる風景」2011年9月10日―11月13日
ナビ派の理論的中心として活躍、聖書や神話を主要なモチーフに象徴的な内容を装飾的に描いたことで知られるドニ。ほかに、妻や子どもたちの日常が重要な位置をしめていたことがよくわかる企画。正直な感想は、よくもこんなにたくさん家族の絵を描くもんだなあ、というところ。
ドニは好きな作家であるのだけど、では、ドニのどういうところが好きなのかというと、控えめだけども心に響く色、その色で構成された画面、象徴的モチーフ、といったところだろうか。
それからすると、家族の日常を描いたものや肖像画のようなものはあまり好みではない。子どもたちの顔も可愛くないし。
でもときどき、ドニらしいと感じられる画面構成なんかがあって、はっとさせられる。ルネサンスの技法などを研究しているし、視点なども工夫している。しかし、例えば、この手の作品はこの時期のものだというのがあまりはっきりしなくて、これは晩年の作品かなと思うとそうでもなかったり、そのあたりはなんだかよくわからなかった。
とにかく家族の日常や肖像もそれなりに楽しめたわけだが、やはりよかったのは後半に登場する、キリスト教をモチーフにしたいくつかの作品と、宗教的モチーフではなくてもそれをイメージさせる作品たちだ。
具体的には、《プリウレのミサ》、《ドミニクのはじめの一歩(海辺の家族)》、《光の船》、《塔近くのたそがれ(2)》、《プリウレの窓辺の受胎告知》、《聖母賛歌》、《聖母マリアの接吻(プリウレ礼拝堂のステンドグラスのための下絵》、《泉》(《黄金時代》の一枚目のパネル)など。
とくに、司祭と子どもたちを使って日常の中に受胎告知の場面を描いた《プリウレの窓辺の受胎告知》の、穏やかな色の美しい画面は心に沁み入ってくる。窓外の淡いピンク色の町並みがまたとても美しい。
モーリス・ドニ《プリウレの窓辺の受胎告知》
《聖母賛歌》は、日常の光景のようでいて、黄金色に輝く海と空が荘厳な美しさを湛えている。
家族の日常を温かい目で描きながら、それだけではないものを画面に込めたドニの人生の一面をうかがい知ることができる、貴重な展覧会だと思った。