「無声時代ソビエト映画ポスター展」を
東京国立近代美術館フィルムセンター展示室でみた。
ソビエト文化研究家の袋一平が日本に持ち帰ったソビエト映画ポスター・コレクションの全貌を紹介する展覧会。
暢気に構えてチェックしていなかったものだから、第1期を見逃したことに初めて気がついた。
Takさんの記事をよく読んでおけばよかったと後悔。まあ、とりえあえず3期は見逃さなくてすみそうだけど。
この展覧会でもっとも重要な人物はステンベルク兄弟だと思う。ロシア・アヴァンギャルドに名を残したウラジーミルとゲオルギーの兄弟の最もすばらしい仕事が映画ポスターだとされる。
上のチラシをご覧あれ。
こちらも映画分野でアヴァンギャルドの重要人物、ジガ・ヴェルトフ監督の『カメラを持った男』(1929)のポスター。映画はかなり実験的なドキュメンタリーらしくて、どうも理解するのが難しそう。だけどポスターには、なんかよくわからない混沌としたものがありながら、摩天楼の高みに吸い込まれるような、あるいは落下するような奇妙な浮遊感があって、構成のうまさに思わず唸った。写真を使わず、写真みたいなイラストを描いたという兄弟の巧みな表現の魔術には舌を巻く。ポスターに魅かれて映画を観に行ったらガッカリなんてこともありそうだ。
このように、ステンベルク兄弟の、構成主義のモンタージュ手法を駆使したポスターの数々には、映画の喜びや躍動感が詰まっている。
ステンベルク兄弟のデザインはほかに、『道化師ジョルジュの祝賀興行』(1929年、アレクサンドル・ソロヴィヨフ監督)、『アルセナール(武器庫)』(1929年、アレクサンドル・ドヴジェンコ監督)。
第1期には『帽子箱を持った少女』(1927年、ボリス・バルネット監督)、『十月』(1927年、セルゲイ・エイゼンシュテイン、グリゴリー・アレクサンドロフ監督)、『ズヴェニゴーラ』(1928年、アレクサンドル・ドヴジェンコ監督)、『上海ドキュメント』(1928年、ヤーコフ・ブリオフ監督)が展示されていたそうだ。残念。
『帽子箱を持った少女』
もちろんステンベルク兄弟だけでなく、展示されているポスターにはいろいろ魅力があって、タイトルを見て、ポスターを見て、フムフムと思いながら見ていくと、とても愉しい。
とくに気に入ったのが、『立入禁止の町』(1929年、ユーリー・ジェリャブシスキー監督)のポスター3点。どういう映画かはまったく知らないけど、この題名で動きのあるミステリアスなポスターを見ると、ドキドキわくわくするサスペンスフルな作品に違いない!と観たくなる。
カラフルなポスターがモノクロ映画の魅力を引き出していた、あるいは映画以上の魅力をたたえていた時代が確かにあったんだと感じさせてくれる、なかなか貴重な展覧会だ。