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八王子に出る用があったので、少し早めに出かけて八王子市夢美術館に寄り、「日本近代洋画への道 高橋由一から藤島武二まで 山岡コレクションを中心に」をみてきた。「安彦良和原画展」以来2度目。
どうやら長年いろいろなところを巡回して八王子にやってきたようだ。


日本の近代洋画の草創期の歩みを、山岡コレクションを中心に振り返る試み。


高橋由一《鮭図》(1879-80)
由一の鮭といえば、東京藝大所蔵の《鮭》が有名だが、この鮭は紙ではなく板に描かれている。鮭よりも板の艶艶した質感に惹かれた(板をどの程度活かしているのかわからないけど)。肉が残っていないから板に目がいったのかも。

徳川慶喜《池畔風景》
狩野派に学んでいた慶喜が油絵を学んだのは大政奉還後らしい。そういうイメージをもってしまっているせいか、なんか枯れた印象の絵だった。


五姓田義松《人形の着物》(1883)
迫力の写実。ここまでの作品はあまり油彩画という気がしなかったけど、これはヨーロッパで描かれたせいか、西洋画の空気が濃密に漂っている。


川村清雄《ベニス風景》
上下のほぼ中心に中心的な構造物を均等に配置し、さらに左右に赤と緑を配置したおもしろい構図。多分その安定感のおかげで心地よさを感じるのだと思う。

岡精一《捜索(奈良・般若寺)》
斬新な構図が評判だったようなことが説明にあったが、まさに写真のような構図を絵に描いたというところがおもしろい。結構好きです。


青木繁《二人の少女》(1909)
勝手な思い込みだけど、青木繁らしからぬ情緒的な作品のような気がする。
手前の向こう向きの少女が岸田劉生の麗子のようにもみえる。

高橋由一、五姓田義松らが師事したチャールズ・ワーグマンの作品もさまざまあった。
伝平賀源内《薬草会議図》(長崎系洋風画)なんてものもあった。

けっこういろいろなタイプの作品があって、近代洋画黎明期の試行錯誤が感じられて興味深い。モチーフにもよるだろうけど、洋画初期の作品たちには、やはり西洋画を目指しつつも日本的な味わいが色濃く感じられた。
    
  
椿山荘近くの講談社 野間記念館「横山大観と再興院展の仲間たち」をみた。
横山大観は苦手だけど、「再興院展の仲間たち」のほうに惹かれて出かけた。

横山大観と再興院展の仲間たち 横山大観と再興院展の仲間たち02

野間記念館は最近まで改修していたそうだけど、以前を知らないのでどれくらい変わったのかよくわからない。建物のなかは真新しくきれいな印象。こぢんまりした庭も美しい。

小茂田青樹 四季花鳥
小茂田青樹《四季花鳥・春夏秋冬》(1928)
もともと四面形式ではなかったそう。なのに四面を並べてみると、当初から予定していたようにバランスよく仕立てられている。とくに、緑、黄、橙、水色の色調が揃っていて、落ち着いた華やかさというか、なんというか。とにかくいい気分になれる。

速水御舟 朱華琉璃鳥
速水御舟《朱華琉璃鳥》(1933)
はっきりした大胆な色で構成され、とくに瑠璃色の美しさが赤い椿との対比で際立っている。あと、葉の黒が独特で、画面をぐっと引き締めている。なんという構成力と装飾性。

速水御舟 梅花馥郁
速水御舟《梅花馥郁》(1932)
馥郁たる香りが漂ってくる。枝振りがとくに構成的で面白い。様式的なところが新しさをみせているのだと思う。

山村耕花 江南七趣 秦淮の夕
山村耕花「江南七趣」(1921)《秦淮の夕》
中国江南に取材した作品たち。風景に風俗を添えている。
《秦淮の夕》の場合、全体を青く覆った夕闇の様子がほのぼのとしていて気持ちいい。人々の姿をさっぱりと表現していて、なんか楽しげ。
緑で覆われた《西湖高荘》もいい。どちらも色に加えて、イラストっぽい風俗の部分に目が惹きつけられた。
「江南七趣」は「小器用にまとめた画面のあざとさや過剰な色彩」が指摘されたというけど、僕が気に入ったこの2点はたぶん「過剰な色彩」の部類に入っているのだろう。

小林古径《平重盛》(1916)
涼しげな目元と気品ある顔立ち。重盛という人物については歴史家に任せるとして、この肖像には作家の好意が感じられる。古径の人物画はあまりみたことないけど、とてもさっぱりしていていい。
「神護寺三像伝平重盛像」は足利尊氏でないかとの説が近年有力になっているらしいので、この際、肖像画ではないけど、小林古径作品を定番にしてはいかがでしょう。魅力的すぎるかな。

最後の展示室は、小茂田青樹、木村武山、小杉放庵、小川芋銭、堅山南風、長野草風がそれぞれ描いた色紙「十二ヶ月図」。
小茂田青樹「十二ヶ月図」(1928)
色紙の背景の金がいやみなく美しくて、そこに描かれた愛らしい植物、虫、鳥を引き立てている。各月にそれぞれ工夫があって、ひとつとして魅力のない作品がないくらい。この色紙をみただけで出かけた価値があった。
ちなみに、もうひとつの小茂田青樹「十二ヶ月図」(1930)は、金の色見もやや冴えないし、モチーフを作りすぎな気がして、先の1928年版には及ばない。

期待以上のすばらしい作品だらけで、大満足。曇天でなくて晴れていたらどんなによかっただろう。展示とは直接関係ないけど、庭に面した休憩室がカフェだったら、コーヒーでも飲んでゆっくりしたいところ。

    
  
日本橋三越で「今、蘇るローマ開催・日本美術展 日本画を世界に 大観・玉堂・栖鳳・古径・青邨」をみた。

今、蘇るローマ開催・日本美術展

1930年にローマで開かれた日本美術展に出品された作品のうち、今は大蔵集古館に所蔵されている作品を中心に40点余りが展示されている。ローマ展を全面支援した大倉財閥の大倉喜七郎が使った額は100万円、現在の金額にして50億円から100億円にもなるというから驚きだ。

横山大観はとても気合いが入っていたとのことで、26点も出品したそう。本展にも参考出品合わせて18点が出ていた。
横山大観《夜桜》(1929)
祇園の枝垂桜を変えた山桜に篝火を合わせて、日本の伝統的風景を描いている。想い描いていたものより色がきつくて、あまり静かな印象がなかった。
大観作品のうち気に入ったのは、「山四趣」うち《霖雨》(1925)。山がまるで生き物のように表現され、大観に抱くイメージとは違うユーモラスさを感じる。

下村観山《不動尊》
下村観山《不動尊》(1925)
黒と金だけで構成されたところが、なんか畏れ多い。迷いない線が緊迫感のある引き締まった画面を生み、その表情には鬼気迫るものを感じる。

竹内栖鳳《蹴合》
竹内栖鳳《蹴合》(1929)
軍鶏の争いの一瞬。スピード感のある動きと羽の繊細な質感。近寄ってみてみると、みなぎる生命力が画面から溢れ出てきそうだった。

小林古径《木菟図》
小林古径《木菟図》(1929)
戦闘態勢を整える木菟のオレンジ色の鋭い眼光と可憐に咲く紅梅のピンクが、夕闇に向かう背景に映えて、静かな緊張感を湛えている。

速水御舟《鯉魚》
速水御舟《鯉魚》(1929)
輝くような存在感のある鯉は、もはや魚ではない、なにか神秘的な存在のようにもみえてくる。花の青白さが現実と非現実の狭間を象徴するようだった。

今回もっとも楽しみにしていた作品。チラシの画像をみてください。
前田青邨《洞窟の頼朝》(1929)
戦いに敗れて洞窟に逃れた頼朝と家臣たち。しかし、洞窟の外を伺うその視線に悲壮感はなく、まだチャンスがあると希望を抱いているよう。甲冑の存在感とたしかな質感がほんわかした雰囲気と融合して全体を覆い、うきうきするような高揚感を与えてくれる。いつまでもみていられそうなドラマ性がこもっていた。
手前の武将はパタリロみたいだけど。

このほかにも、淋派のような堅山南風《秋草》(1929)、鴨がとにかく愛らしい小茂田青樹《睡鴨・飛鴨》(1929)、そしてなんだかのほほんとした風神雷神が、今はやりのパンツのようなものを履いた安田靫彦《風神・雷神》(1929)などなど、素晴らしい作品が目白押し。
日本画がもっとも輝いていた時代のひとつなんだな、ということを感じとれる展覧会だった。
    
  
国際博物館の日の記念イベントで上野では東京国立博物館、国立西洋美術館や国立科学博物館の常設展(平常展)が無料ということだったので、ちゃっかり出かけてきた。

まず東博平常展では、本館日本ギャラリーを一回りして目にとまった絵を中心にみた。いちばん楽しみにしていたのは近代美術部屋。何が出ているかいつも楽しみ。

前田青邨《大同石仏》(1938)
中国山西省大同を訪れたときのスケッチをもとに描いた石仏。とてもとても淡い色調で気品のある石仏が描かれている。ふと見ると、手前に人がひとり座っていて、石仏の巨大さがわかる。

そして、振り向くと、まさか!と息をのんだ。これがみられるとは想像していなかった。
京の舞妓 速水御舟
速水御舟《京の舞妓》(1920)
岸田劉生の写実的画風に刺激を受けて描いたという細密な写実画。日本画でどこまで写実表現ができるかを試みたわけだけど、横山大観は「悪写実」だと激怒して再興日本美術院から除名しようと言ったらしい。そうなれば小林古径までいなくなってしまう、と安田靫彦が忠告して思いとどまったという。
これまで画像をみて、たしかにやり過ぎではないかなと思っていた。ところが実際にみると、それが思ったほどいやみやリアルさではなかった。影やらのせいでどす黒く見える顔はたしかにちょっとこわいけど(モデルの舞妓さんはいやだったろう)。
着物、花瓶、団扇、畳など細部に至るまで実に写実的で、逆にほれぼれする。日本画でここまでリアルに描けるものかと感心した。とくに花瓶と畳の質感といったら。そして花はとても美しい。
御舟自身、失敗を認めたが、その理由は「写生が足りなかった」との一言だったという。いずれにせよ、この実験的試みがあったから後の《炎舞》《名樹散椿》などにつながったのだろう。御舟は亡くなる1年ほど前に、もう一度写実をやってみたいと言ったという話があり、本当の意図ははっきりしないようだけど、何かを試そうとしていたような感じがある。人物にも意欲を示していたので、急逝が残念でならない。

平成館の特集陳列「海外の日本美術品の修復」は、「在外日本古美術品保存修復協力事業」の一端を紹介する興味深い展示だった。これまで海外にある日本美術の修復のことなんて考えたこともなかったけど、これからもしっかり続けていってほしいものだ。


東博を後にして、続いては西美の常設展をみた。ウルビーノのヴィーナス展の後にみたときと変わってないようだった。

そして最後に科博の常設展。
久しぶりに日本館を回ってから、初めて「シアター360」を見た。
2005年「愛・地球博」で上映されていた「地球の部屋」が見られるなんて知らなかったので、すごくうれしくて、実際、とても素晴らしい驚異の映像にわくわくするばかり。4分の上映がもっとずっと短く感じられた。もう一本の科博オリジナル映像「恐竜の世界」と合わせてたったの8分。待っているときは長く感じられたのに。

ちゃっかり無料で上野の美術館・博物館三昧。ただただ感謝です。
    
  
講談社野間記念館「竹内栖鳳と京都画壇」(5月24日-7月21日)をみた。

竹内栖鳳と京都画壇01 竹内栖鳳と京都画壇02

竹内栖鳳をはじめ、京都画壇の精鋭たちが描き出した、美世界。
近代日本画壇の一大勢力の画業を、野間コレクションから選び抜きました。

竹内栖鳳《古城松翠》
竹内栖鳳《古城枩翠》(1926)
詩情あふれる作品だなとは思いながらさらっとみて、通過。第1室を一通りみおえて出口に向かおうとして、遠目からこの絵の青色が目に飛び込んできた。雲のように濠へと迫り出した松を取り囲むように置かれた空や水の青が、薄いながら鮮烈にみえた。

堂本印象《清亮》(1932)
鳥たちと花が絵の下方に寄り集まって描かれているけど、それがかえって華やかさを高めている。

西村五雲《夏木立》(1936)
独特の筆致で、枯れた印象。木菟の姿がまるで猫のようでおもしろい。

徳岡神泉《鶉図》(1935)
「じっとりした地面の様子を薄墨で表現」とある。本当に薄い墨で水を含んだ土が見事に描かれている。そこに立つ愛らしい鶉と伸びやかな木賊(トクサ)。トクサは山間の湿地に自生するという。

福田平八郎《雙鶴図》(昭和初期)
この作家らしい、デザイン画風のきっちりと端正な表現がとても好きだ。「単純化」することが装飾性を生んでいるように思う。

土田麦僊《春》
土田麦僊《春》(1920)
四面の大作に花が咲き誇る作品。右が椿の大樹、左が白木蓮、そして中央が梨の花だという。「梨」の季語は秋だけど、「梨の花」になると春。こんなに美しい花だとはまったく知らなかった。なんの根拠もないけどウィリアム・モリスのデザインを思い出した。
花の白や赤、草や葉の緑が画面全体を覆い、春の息吹を強烈に感じさせる。でも人物はちょっと・・・。

上村松園「十二ヶ月図」(1927)
松園の場合、十二ヶ月図でもやはり人物がメインか。個人的には、掛け軸なんかの大きな絵より、色紙という小さな世界にさりげなく描かれる人物のほうが、細かさではなく、姿態が前面に出てくるせいか、ずっと好きだ。

竹内栖鳳《勢幾禮以》(1923)
水辺に佇む鳥をみて初めて「セキレイ」と読むのだと気づいた。《鮮魚》(1933)も桜色のグジがまさに新鮮そうで食欲がわいた。

「十二ヶ月図」ばかり展示している第4室。山口華楊、上村松篁、福田平八郎、堂本印象、徳岡神泉、榊原紫峰、西村五雲の7作品。とくに気に入ったのは次のふたり。とくに色紙という媒体のせいかもしれないが、はっきりすっきり描かれたものが好み。

山口華楊「十二ヶ月図」(1928)
単純化されたデザイン風だが、装飾性がある。
《二月、八重椿》の美しさや、《十月、柿に栗》の栗やイガの愛らしさがたまらない。

福田平八郎「十二ヶ月図」(1930)
山口華楊同様にデザイン的だが、さらにシンプルでおもしろい。
なんといっても鳥たちやカエルの可愛らしさは抜群だ。

野間の十二ヶ月図コレクションはすごい。全部で五千点もあるというのだから、初心者としてはこの先、ずっと楽しめそうでうれしい。

最後に、休憩室から誰もいないテラスに出ると、雨上がりの草や花のかおりがあたりを包み、鳥の鳴き声、しずくの垂れる音が聞こえてきて、すばらしくほっとするひとときを味わった。
残念ながら、その後にやって来た人のたばこのにおいが迫って来たので、早々に退散するはめになったけども。

前回の「横山大観と再興院展の仲間たち」と今回でスタンプが2個たまったので、次回は無料で入れる。「川合玉堂とその門下」(9月6日-10月26日)を楽しみにしよう。
       

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