損保ジャパン東郷青児美術館「アルプスの画家 セガンティーニ ―光と山ー」2011.11.23ー12.27
東日本大震災の影響で一旦は中止になったセガンティーニの回顧展が会期を変更して帰ってきた。会期が短いのでご注意。
ジョヴァンニ・セガンティーニといえば、チラシにもなっている《アルプスの真昼》のような、アルプスの強烈な光に包まれた大自然と人と羊が浮かぶ。が、それだけがセガンティーニではない。
この展覧会では、ミラノで学んだ伝統的な絵画で世に出て、スイスアルプスの山に魅せられて移り住み、明るい色彩の写実的な作風から、さらに高地へと移りながら母性、生と死、自然と人、母性、罪などをテーマとする象徴主義的な作品へと至る過程が明確に提示されている。肖像画や自画像もある。
セガンティーニ《羊たちへの祝福》
圧倒的な明暗にこだわった《鐘つき番》同様、光と影の表現への関心がうかがえる。
セガンティーニ《白いガチョウ》
白い雪の上に横たわる白いガチョウ。ほとんど白だけで強い存在と死を浮かび上がらせる力量に目を見張る。
セガンティーニ《湖を渡るアヴェ・マリア》
厚紙にコンテや鉛筆などで描かれたものとは思えない瑞々しい美しさをたたえている。
セガンティーニ《虚栄》
タイトルに込められた虚栄への戒めを、まばゆい女性の裸身を穏やかで美しい自然の中に浮かべることによって描き出しているようだ。
セガンティーニ「アルプス3部作」のうち《死》
3部作はサン・モリッツにあるセガンティーニ美術館から事実上の門外不出ということで、参考パネルが展示されていた。沈鬱な近景と魂のような金色の雲が浮かぶ遠景の対比が、死と再生を象徴しているよう。
セガンティーニが用いた、短いタッチの色で画面を埋めていく分割法という絵画技法は、分割されている細かな色彩が離れると混ざり合い、明るい発色になるという。
大原美術館とセガンティーニ美術館がそれぞれ所蔵する《アルプスの真昼》は、展示空間の中央にあって、離れて遠くから観ることができる。自然な明るい色が美しく輝くだけでなく、木や草までもが立体的に浮かび上がってきて、心が惹きつけられる。そういえば、この2作品とも縦横比の小さい四角い画面に描かれているのだが、どんな意図があるのだろう。
アルプスの雄大な自然を愛し、そのアルプスの山で41年の短い生涯を終えたセガンティーニのいくつかの側面を垣間見ることができる、見逃せない企画だ。