2019.09.17 Tuesday

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

  • posted by スポンサードリンク|
  • -|
  • -|
  • -

2008.10.06 Monday

ハンマースホイ展(東京展)

「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」(9月30日-12月7日)を国立西洋美術館でみた。

ハンマースホイ展

ハンマースホイという名を目にしたのは、去年のオルセー美術館展が初めて。エントリでは触れなかったけども、出品されていた《室内、ストランゲーデ30番地》は妙に静かで何もない不思議な絵だなと思ったことをよく憶えている。

ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-1916)は20世紀初めに活躍した、北欧の象徴主義美術を代表するデンマークの画家。「モノトーンを基調とした静寂な絵画空間」が特徴。
没後の1930年代にはすでに忘れ去られ、再び注目されるようになったのは70年代になってからだという。いくらシュールレアリスムや抽象画の台頭があったからといって、みるものを一瞬にして惹き付けるミステリアスな雰囲気のある絵がどうして忘れ去られるなんてことがあるのだろう。

ハンマースホイは写真をよく利用していたらしい。どの程度使っていたのかは知らないが、多くの作品に写真の雰囲気がある。レンズの効果、モノトーンまたは抑制された色み。
写真らしい雰囲気をあえてつくりだしているようだが、写真をそのまま利用するのではなくて、取り込んで活用しながら世界観を広げているような感じがある。画面から人や物を消し去ったり動かしたり、写真に出た色を活かしたり、ほかに色を加えたり。写真からインスパイアされたものを感じながらみていくのもひとつの見方かもしれない。

I ある芸術家の誕生

ハンマースホイ_若い女性の肖像
ハンマースホイ《若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ》(1885)
アカデミー主催の展覧会に出品して落選したことが論争になったという作品。輪郭そして背景との距離感がはっきりしないことや抑えた色が嫌われたのだけど、そこに新しさをみた若い世代との論争になった。たしかに妹の輪郭は壁に溶け込むように描かれている。技法がどうのこうのあるかもしれないけど、そのややもやっとしたところが幻想性を醸し出していて魅力的な肖像画になっている。
よく知っている場所で、遠くに視線を向けるよく知った人物を、抑制された色で描いている。生涯にわたって描き続けた姿勢がこの当時すでにみられるというのは驚くべきことなんだろう。

II 建築と風景

ハンマースホイ_クレスチャンスボー宮殿、晩秋
ハンマースホイ《クレスチャンスボー宮殿、晩秋》(1890-92)

ハンマースホイ_クレスチャンスボー宮殿の眺め
ハンマースホイ《クレスチャンスボー宮殿の眺め》(1907)
これほど魅力的なモノトーンの絵があるだろうか。
例外はあるものの、ハンマースホイが描く風景に人はいない。本来は賑わっている王宮にも人はいないし、生活感もなく、音もしない。何か冷たい美しさが漂うのだけど、なぜだろう、寒々しい感じはしない。
ひとつだけ窓が開いていたり、窓の向こうに物があったり、よく見ると、なにかしら気になるものが見つかる。

ハンマースホイ_旧アジア商会
ハンマースホイ《旧アジア商会》(1902)
まるで建築写真か設計図であるかのようにかっちりと描かれている。青みが不思議な味わい。

ハンマースホイ《リネゴーオンの大ホール》(1909)
広角レンズで写真を撮ったかのような効果がはっきりとみられる。レストランなどを紹介するとき、実際より広く見せるために使われる技法。でもこの絵の場合は、たぶん、右奥にある開いた扉に視線を向けるよう構図が意図されている。天井の模様もそこに向かって流れている。
ホールには誰もいないし何もない。扉の向こうには何があるのだろう、どうなっているのだろう、人がいるのだろうか。それを見るのはあなたの心ですよ、そう問われている気がした。
今回もっとも美しく魅力的に感じた作品なのに、画像がなくて残念(図録買えよ)!

III 肖像

ハンマースホイが描く人物には平面的でのっぺりしたものが結構ある。ときどきムンクの描く人物がふと思い浮かんだ。
肖像画でも写真をうまく利用しているものがあるのだろうと思う。

ハンマースホイ《ふたりの人物像(画家とその妻)、あるいは二重肖像画》(1898)
ハンマースホイはこの絵の出来上がりに満足し、ホイッスラーに見せようと試みたという。残念ながら叶わなかったが。そういえばホイッスラーにはこういう作品が。

ホイッスラー_灰色と黒のアレンジメント
ホイッスラー《灰色と黒のアレンジメント 母の肖像》(1871)

IV 人のいる室内

この章には、色みの違う画面や質感の違う画面がいろいろある。構図は似ていても、モノトーンやセピア、黄ばんだようなもの、そしてざらついたものやつるっとしたものなど、印象は大きく異なる。現像や保存の状態で思いがけなく現われた写真の色や質感を活かしてみたのではないかと勝手に想像する。

ハンマースホイ_室内、ストランゲーゼ30番地
ハンマースホイ《室内、ストランゲーゼ30番地》(1901)
同名作品がたくさんある。この作品はハノーファーのニーダーザクセン州博物館所蔵。
「人のいる室内」の人の多くは黒い服を身にまとった妻イーダの後ろ姿。後ろ姿でないときも、視線は何を見ているのかわからず、まるで調度品のひとつであるかのよう。
絵のなかの画家たちの自宅にはほとんど物がない。もちろん現実とは違う。絵のなかで画家は、そこに必要と感じたものだけを必要だと感じた場所に残したり、あるいは動かしたり。ここに自宅という風景が誕生している。
この絵にかぎらず、室内は謎だらけ。家具の不自然な配置だったり、椅子の脚が足りなかったり、人物に生気が感じられなかったり。でもぱっと見ただけでは、まったくおかしいとは思わないし、気づいたとしても、違和感をおぼえるとかではなくて、ただどうしてなんだろう、どういう意図なんだろうと考え込んでしまう。そういうミステリアスな要素に幻惑される。

ハンマースホイ_室内、ピアノと黒いドレスの女性、ストランゲーゼ30番地
ハンマースホイ《室内、ピアノと黒いドレスの女性、ストランゲーゼ30番地》(1901)

ハンマースホイ_背を向けた若い女性のいる室内
ハンマースホイ《背を向けた若い女性のいる室内》(1904)

ハンマースホイ_ピアノを弾くイーダのいる室内
ハンマースホイ《ピアノを弾くイーダのいる室内》(1910)
国立西洋美術館所蔵

V 同時代のデンマーク美術

ハンマースホイの影響を受けたふたりの画家、ピーダ・イステルズとカール・ホルスーウ。

イステルズ《室内》(1906)
暖かみがあって魅力的な室内。
妻イーダの兄ピーダ・イステルズはハンマースホイの美術学校の仲間で、妹とハンマースホイが結婚してからハンマースホイの影響を受けていったという。
ハンマースホイと同じように、イーダの後ろ姿を描いたりしているのだけど、色があるのでハンマースホイより暖かく感じられて親しみやすい。だから、当時デンマークではこのふたりのほうが人気があったという。そのぶん、どこにあってもおかしくない絵になっているため、ハンマースホイの独自性のようなものが感じられない。

VI 誰もいない室内

誰もいないだけでなく、物もほとんどない室内になぜこんなにも心が揺さぶられるのか。

ハンマースホイ_居間に射す陽光III
ハンマースホイ《居間に射す陽光III》(1903)

ハンマースホイ_陽光習作
ハンマースホイ《陽光習作》(1906)

ハンマースホイ_白い扉、あるいは開いた扉
ハンマースホイ《白い扉、あるいは開いた扉》(1905)
家具も何もかも取り払われた、何もない室内には生活の痕跡があり、そして何よりも、開いた扉がある。扉の向こう、そのまた向こうには何があるのだろう。

若くして自分の描くべきものを心に抱き、誰かに左右されることなく生涯それを追い続けたであろうハンマースホイ。妻との静かな生活を望んだ寡黙な画家の心のありように想いを馳せながら、自分の心が何を感じているのかを素直に問いかければ、きっと充実した豊かなひとときを過ごすことができるのではないか、という気がする――けど、自分には無理。

誰もがきっと自分だけの何かを発見することができる、そんな特別な展覧会だと思う。

2019.09.17 Tuesday

スポンサーサイト

  • posted by スポンサードリンク|
  • -|
  • 22:56
  • -|
  • -

関連する記事
コメント
こんばんは。

ピカソとは対照的に
生涯一貫した作品
しかも心の奥底に
響く作品を残したハンマースホイ。

絶対見逃せない展覧会ですよね。
★Takさん、こんばんは。
どんどんと作風を変えていく画家だと、好みの時期がはっきりと出てしまいますけど、ハンマースホイの場合は一貫しているので、風景画なり、室内画なりの好みになっていくんでしょうね。
本当に心に響きました。見逃すと後悔しますよ、と言いたいです。
  • キリル
  • 2008/10/07 10:23 PM
ハンマースホイ〜こちらを読ませて頂いただけで、イメージの中の私は既に一度ならず、秋の陽の中をプラプラと上野の坂を胸ときめかせて足を運んでいます。出会いたかった画家です。ふと行き着いた、こちらのサイトに感謝。そして、好きです、キリルさんの目線、語り口。他の展示についても楽しませて頂きました。Philladelphia美術館は娘の住む街で、佇まいが思い起こされます。
  • mique
  • 2008/10/11 10:35 AM
★miqueさん、はじめまして。
こんなブログでひとときでも楽しんでいただけたら幸いです。僕の感想は、ただハンマースホイの絵の力に乗っかって、思うままにつらつらと書いているだけの適当なものですけどね。
フィラデルフィアですか。外国にそういう縁があるというのはいいですね。
こんな調子で気楽に続けているだけですが、また暇なときにでも、覗いてみてください。
  • キリル
  • 2008/10/11 9:14 PM
遅いコメントですみません。

ハンマースホイ展、土曜に駆け込みで見てきました。
頭から好きな感じの絵が続いたのでニヤニヤしながら見ていたのですが
天気雨の所まで来て感極まって泣きかけてしまいました。

「白い扉、あるいは〜」は、絵を額装?する時だかに歪んでしまったそうですが
その時ハンマースホイはどんな気分だったんでしょうね。
★nekobaさん、こんばんは。
いつの記事でもコメント大歓迎です。
数か月前とかに出かけた展覧会のことは忘れてしまっていることがよくありますが、ハンマースホイ展は今でも鮮明です。

とても豊かな気持ちで絵をご覧になっていますね。美術にはこんなに力があるんだとハッとさせられることがあります。
白い扉が歪んだときに本人がそこにいたら、やっぱり複雑な気分なんじゃないでしょうか。陽光習作も歪んでいるところをみると、あまり気にしない人だったのかもしれませんが。
  • キリル
  • 2008/12/08 10:46 PM
コメントする








   
この記事のトラックバックURL
トラックバック
明日から国立西洋美術館で開催される 「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展のプレスプレビューにお邪魔させて頂きました。 ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、ロンドン(Royal Academy of Arts)で今年の夏に開催された展覧会がグレードアップし
  • 弐代目・青い日記帳 
  • 2008/10/07 9:58 PM
「ハンマースホイ」展が開催されている上野公園の国立西洋美術館の外観、やや小雨が降っている夕暮れのせいか、ハンマースホイ調の写真に仕上がっているように見える、と思うのは僕だけか? 小雨降る「国立西洋美術館」 ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-191
  • とんとん・にっき
  • 2008/11/04 2:42 PM
小春日和の秋の午後、木枯らしが吹いて紅葉した枯葉の絨緞を踏みしめながら、森の中を
  • 地中海のほとりにて
  • 2008/11/16 5:55 PM

CALENDAR

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
<< November 2019 >>

ENTRIES

CATEGORIES

SEARCH THIS SITE

ARCHIVES

RECENT COMMENT

  • 栄西と建仁寺@トーハク
    キリ
  • 栄西と建仁寺@トーハク
    奈良県PR担当の油井と申します
  • タルコフスキー『ストーカー』をめぐるいくつかのこと
    キリ
  • タルコフスキー『ストーカー』をめぐるいくつかのこと
    あべ
  • 2011年の美術展ベスト5
    AR
  • 2011年の美術展ベスト5
    はろるど
  • 歴史を描く@山種美術館
    AR
  • 歴史を描く@山種美術館
    遊行七恵
  • 2010年の美術展ベスト10
    AR
  • 2010年の美術展ベスト10
    すぴか

RECENT TRACKBACK

RECOMMEND

LINKS

PROFILE

twitter

スマートフォン

OTHERS

MOBILE

qrcode

POWERED

無料ブログ作成サービス JUGEM

SPONSORED LINK