2008.06.21 Saturday

コロー展(西美)

国立西洋美術館「コロー 光と追憶の変奏曲」(6月18日-8月31日)をみた。

コロー展01 コロー展02

日本でも海外でもカミーユ・コロー(1796-1875)の本格的な展覧会は稀だといわれると、これまで特別関心のある作家ではなかったけど、これは見逃せないという気にさせられる。
曇天の土曜日、上野公園の人出は少なめ。ということで、館内も思ったほど混雑していなくて、目玉作品“コローのモナリザ”以外はわりにゆっくりみられた。

1章 初期の作品とイタリア
最初のイタリア旅行で描いた作品が中心。全体に生真面目な印象を受ける。右手に木などで視線を遮り、左側を大きく開いた伝統的な技法がみられる。光は強すぎず弱すぎず。

モーリス・ドニ《ヴィラ・メディチ、ローマ》(1921)
コローが描いたのと同じ場所を70数年以上後に描いている。西美所蔵作品だけど今までお目にかかったことがなかった。

2章 フランス各地の田園風景とアトリエでの制作
春夏に写生の旅に出て秋冬にパリのアトリエで制作するというサイクルを確立。

コロー_ヴィル=ダヴレーのカバスュ邸
コロー《ヴィル=ダヴレーのカバスュ邸》(1835-40)
下っている坂の道につい目がいってしまう。道にかかる影のリズムが心地よく感じる。
村内美術館に出かけたときに一度会っている。

コロー_緑の岸辺で本を読む女
コロー《緑の岸辺で本を読む女》(1865-70頃)
樹の陰になっているところに女性がいることで、その暗い部分をじっくり覗き込んでしまう。これも狙いなのだろうか。

コロー_ホメロスと牧人たち
コロー《ホメロスと牧人たち》(1845)
古代ギリシアの詩人ホメロスの造形に批判があったらしいが、現実にある風景と伝説の人物をうまく融合させているところが見事だと思う。

3章 フレーミングと空間、パノラマ風景と遠近法的風景
遠くから眺めた城、都市風景など。それらに呼応するアンドレ・ドランの作品がいくつか。
緑の画面には必ずといっていいほど赤やオレンジがほんの少し、ポイントとして置かれている。これは明らかに意図的だろう。例えば、女性のスカーフやオレンジ色の果実といったものが、画面を引き立てている。これはもちろんこの章だけのことではないけど。

4章 樹木のカーテン、舞台の幕
森を舞台に見立て、樹々の幕の間から照明を受けた舞台を見るような構成。

コロー_ヴィル=ダヴレーの想い出、森にて
コロー《ヴィル=ダヴレーの想い出、森にて》(1872)
鬱蒼とした森で読書する女性。中央に開けた空間とその上空だけがやや水色がかって明るい。開けた場所は池のようにも見えるが、鹿が走っていることでそうではないことがわかる。女性がそれに気づいて振り向いている、という美しい情景。

コロー_緑の岸辺
コロー《緑の岸辺》(1865頃)
森に閉ざされたような場所。小川の先にかすかに見える光が、その先の開けた空間を想像させる。

コロー《マリセルの柳》(1857)
左右に規則正しく並んだ柳が視線を先に誘い、とくに右側に列をなしているのはまるでランプのよう。舞台というよりは映画のワンシーンみたいにみえた。

5章 ミューズとニンフたち、そして音楽
コローといえば風景。そんな偏ったイメージを払拭する人物画たち。どちらかといえばリアルではない女性たち。コローは想像上の女性像を描いていたのか。
そういえば、コローの風景画に自然だけを描いたものは少ない、もしくはないかも。人物が小さく描かれていたり、人物がなくても建物がある。そこにコローの関心がうかがえる。
コロー_鎌を持つ女
コロー《鎌を手にする収穫の女、あるいは鎌を持つ女》(1838)
屋外の女性像で、背景にこれほど広がりのあるものは他になかった。全体の構成、女性のポーズ、表情がとてもユニーク。

コロー_本を読む花冠の女
コロー《本を読む花冠の女、あるいはウェルギリウスのミューズ》(1845)
緑の服を着た女性の胸元が白く開けている。左右に緑を置いて中央を明るくする風景画の手法をそのまま人物画に応用したようでおもしろい。

コロー_真珠の女
コロー《真珠の女》(1858-68)
コローの《モナリザ》。全体を同系色でまとめた地味な色調と深く何かを考えているような静かな表情と姿が調和して、印象的な美しさを湛えた作品になっている。
照明のせいでラメのようにキラキラ光ってしまっていて、髪飾りのアクセントになっている赤の部分が目立たず、とても残念だった。右寄りの遠目の位置だと光らないけど、たくさんの人が集まっているので見にくい。比較することにまったく意味はないけど、個人的にはモナ・リザより好きだ。

ここまでの3点の人物画はどれも胸のあたりがはだけているところが共通しているが、コローにとっては女性を描くうえで必要だったのだろう。《真珠の女》に至ってはわざわざ描き直したということだ。

6章 「想い出(スヴニール)」と変奏
写生に作家の心情を投影させた「想い出」。
4章に含まれていた《ヴィル=ダヴレーの想い出、森にて》が実際に展示されていたのはこの6章の展示室だった。そう考えると、読書する女性と鹿のシーンがより詩的にみえてくると思う。

コロー_モルトフォンテーヌの想い出
コロー《モルトフォンテーヌの想い出》(1864)
うねうねと動いているような樹々と影。ファンタジーの世界が広がる。

内外の美術館からこれだけたくさんのコローが集められているのが見られる機会はそうそうないだろうことはもちろん、コローがこれだけの作品を描いていたのだということ自体が驚きだった。
こうやって感想を書き連ねていると、意外なことに、コローの良さをあらためてじわじわと感じて、じつに不思議な気分になった。


2019.09.16 Monday

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コメント
ホメロスと牧人たちをもっとよく観たいのでもっと大きい画像を載せていただけないでしょうか?
  • ポチ
  • 2008/06/22 12:50 AM
★ポチさん、こんばんは。
図録も買ってなくて、ちゃんとした画像はないので、こちらを参照されてはいかがでしょう。
http://www.mail-friend.net/wallpaper/wallpaper-pic/wallpaper183/corot110-1280.htm
  • キリル
  • 2008/06/22 1:12 AM
ほんとありがとうございます!!どこ探してもなかったんですごい助かりましたー。
私もコロー展に行ってきたんですが、この絵が一番心打たれました。木とか道とか奥の建物のが書き方がすごいきれいで癒されますよね〜。
ブログ楽しみにしてるんで、頑張ってください!!
  • ポチ
  • 2008/06/22 11:59 AM
こんばんは。
コローをこんなに見たのはじめてで、ただ
風景画家だなんて誤解してました。
最近、村内美術館に行って、これがコロー展に
貸し出されます、とあって では行ってみなくては
と思いました。
すばらしい画家、素晴しい絵です。感激!
★ポチさん、こんばんは。
こちらこそありがとうございます。おかげでもう一度じっくりと眺めて、あらためて雰囲気のあるいい作品だなーと思いました。
ブログもなんとか細々と続けていきたいと思っています。
  • キリル
  • 2008/06/22 9:33 PM
★すぴかさん、こんばんは。
村内もバルビゾン派から現代まで揃っていて穴場の美術館ですよね。違う場所で続けて同じ作品をみた感想ってどういうものでしょう。
今回の展覧会で人物画がしっかりと紹介された意義はとても大きいですね。宣伝で真珠の女を前面に出したところがいいです。
  • キリル
  • 2008/06/22 9:42 PM
こんにちは。
コローは、あちこちで見慣れているのですが、
こうしてまとまって見ると、いい味わいですね。
じっくり寝かしたウィスキーのような感覚です。
★一村雨さん、こんばんは。
>コローは、あちこちで見慣れている
そういえば、たしかにちょこちょこと見ていた気がします。まとまってみないと見えてこないものもあるようですね。
ウィスキーも長らく飲んでませんが、記憶にある芳醇な香りが漂ってきましたよ。
  • キリル
  • 2008/06/24 11:05 PM
キリルさんおひさしぶりです。

私も最近コロー展に行ってまいりました。
コローの良さがあらためてじわじわと・・・
まさにその通りでした!!

今年見た展覧会の中で一番素晴らしかったです!

ある一風景も、人の想像力でここまで
豊かでファンタジックに彩られるものかと、
本当に驚きました。

TBおくらせていただきますね。

キリルさんの美術めぐりは
あいかわらず幅広く、進歩的で素晴らしいですね。



★marimoさん、こんばんは。
単なる風景画だったら、きっとこれだけ多くの人を魅了することはなかったでしょうね。本当に豊かに彩られていますね。
外の風景と内なる風景が一体となって、そこにあるようでどこにもない世界がつくりだされているように感じます。

美術展めぐりのペースはずいぶんと落ちています。どうも選択的になっているのかもしれません。
  • キリル
  • 2008/07/16 12:44 AM
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国立西洋美術館で6月14日より開催されている「コロー 光と追憶の変奏曲」展のコミッショナーである、高橋明也氏(三菱一号館美術館長,国立西洋美術館客員研究員)に今回の「コロー展」の見どころについてお話頂戴出来ました。 高橋氏は公式サイト内でも「なぜ今コ
  • 弐代目・青い日記帳 
  • 2008/07/09 8:42 PM
「モルトフォンテーヌの想い出」コロー 上野の国立西洋美術館に行きました。 ジャン=バティスト・カミーユ・コローの 「光と追憶の変奏曲」と題された展覧会です。 今回の展覧会は、少なくとも、今年見た中で一番感じるものの多い、 素晴らしい展覧会
  • MARIMO
  • 2008/07/15 11:10 PM
コロー 光と追憶の変奏曲を観て16日(水)に年休を取って国立西洋美術館(世界遺産登録されます)で「コロー 光と追憶の変奏曲(SouvenirsetVariations)」を鑑賞しました。第1章:「初期の作品とイタリア」(LesDebutsetL'Italie)第2章:「フランス各地の田園風
  • KINTYRE’SDIARY
  • 2008/07/24 11:14 PM
上野の国立西洋美術館で開催されている「コロー 光と追憶の変奏曲」展を観てきました。19世紀フランスの画家カミーユ・コロー(1796-1875)という画家は、僕にとっては今まで馴染みの薄い画家でしたが、今回の展覧会に行ってみると、なかなか面白く、興味深い画家だと
  • とんとん・にっき
  • 2008/08/23 6:18 PM

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