機会があればみるつもりにしている山口晃。現代アートのことはよくわからないが、山口晃作品をみるのは楽しみだ。作家自身が楽しんでいるように感じるし、自分も楽しくなるから。
銀座の
メゾンエルメスで山口晃展が開かれていたのをすっかり忘れていて、思い出したからにはすぐに行かねばといそいそと地下鉄に乗る。
地上へと上がると、はてどこが入口やら。この時点ですでに、まるで異次元空間にでも誘われているように感じる。係の人に親切に教えてもらってショップ内のエレベーターで上がる。こんな自分とは縁のなさそうな場所に向かうこと自体、すでに異次元だ。
到着したその空間はがらーんと広い。その広い壁面のひとつが電柱と電線で埋まっている。
《忘れじの電柱》
電柱と電線といえば、今やアニメの重要なアイテム。近頃、自宅周辺では電柱電線が減っていることもあって、電柱を見ると、第3新東京市で電線がひゅんひゅんと唸りを上げるシーンが頭をよぎる。しかしここ銀座にある電柱はグレーでもなくて、どこでも見たことがない。やはり自分は異空間にいるのだ。
背後を振り返ると、ぽっかり開いた入口から明るい中の部屋が見える。ソファや電話があって、事務室かと躊躇するが、入口の様子がなんか変だ。入ってみると、忍者屋敷のように傾いている。
《正しい、しかし間違えている》
やはり異空間。
もうひとつの空間には東京を俯瞰した横長の屏風。明らかに描きかけだが、左右と真ん中がバランスよく描かれていて、この段階で終了しても完成と宣言できるようにみえる。雲がとてもきれい。
《Tokio山水(東京圖2012)》
近づいて建物をじっくり見ていくと、ビルの屋上に櫓が建っていたり、なんとなく違う建物があちこちにあって、知っている東京だけど知らない東京でもある。
自分はどこにいるのか。異次元に迷い込んだような空間に惑わされながら会場を後にした。
またしてもどこから地下に戻っていけばいいのかわかりにくくて、たくさんの人が行き交う地下街にようやく出たときには、本来自分が属している世界に戻ってきたんだなと実感できる、そんな不思議なひとときだった。